著者
長田瑞恵
雑誌
日本教育心理学会第61回総会
巻号頁・発行日
2019-08-29

はじめに 自分の呼称(以下「自称詞」と呼ぶ)は自我の発達を表すものの一つと考えられる (西川,2003)。子どもたちは2歳過ぎから主に自分の愛称(三人称)を名乗って他者との区別を明確にし(西川,2003),3歳頃から三人称で呼ぶのをやめ一人称代名詞を用いるようになる(Wallon,1956/1983)。児童期以降では,相互作用の相手や場面に応じて自称詞の使い分けが行われている。例えば,東京近辺の中高生を対象にした調査では,男子は「オレ」「ぼく」など,女子は「あたし」「わたし」など複数の自称詞を相手に応じて使い分けていた(尾崎,1995)。 このように,自称詞は自我の発達を表すものと捉えられ,その使い分けの変化について若干の研究はあるが,自称詞の使い分けの発達的変化と自我の発達との関連性を直接的に検討した研究はほとんどない。また自称詞には地域性があることも指摘されており,その点も考慮して検討する必要がある。そこで,本研究では,標準語圏,関西方言圏,東北方言圏の高校2年生と大学2年生を対象に,自称詞の使い分けの発達的変化と,自我の3側面(根気我慢・情動抑制・自己主張)の発達との関連について検討を行った。方 法*被験者:標準語圏・東北方言圏・関西方言圏に在住ずる高校2年生と大学2年生(Table 1)。 *材料:インターネットを使用した質問紙法 *手続き:様々な場面を設定して,それぞれで最もよく使用する自称詞を選択してもらった。加えて,自我の発達の指標として自我の3側面(根気我慢・情動抑制・自己主張)に関して役割取得についての理解や認識を問う質問を加えた。結果と考察 自我の3側面(根気我慢・情動抑制・自己主張)を従属変数とした地域(3)×学年(2)×自称詞使い分け有無(2)の反復測定分散分析を行った(Figure 1)。その結果,自我の3側面の主効果(情動抑制>自己主張>根気我慢),使い分け有無の主効果(有群>無群),学年の主効果(大学生>高校生)が示された。また,使い分け有無×学年の交互作用が有意傾向であり,使い分け無群で大学生>高校生の傾向があることが示唆された。 以上の結果から,思春期から青年期にかけては自我の3側面の発達的変化が見られたが,その変化と自称詞を場面に応じて使い分けるか否かが関連することが示唆された。一方で地域差は示されなかった。いずれの地域においても,自称詞の使い分け状況は自我の発達を表す一指標として考えられる可能性が示唆された。しかし,本研究の対象者である高校生と大学生では自称詞の使い分けをしない人数が非常に少なかったために,発達の実相をとらえきれていない可能性があるため,今後の課題として,中学生や小学生を対象とした検討が必要である。付 記 本研究は2016~2018年度科学研究費(基盤研究(C)課題番号16K04267 課題名「自称詞の獲得と使い分けの発達:自己概念と心的用語との関連から」の助成を受けて行われた。