著者
長縄 祐弥
出版者
拓殖大学言語文化研究所
雑誌
拓殖大学語学研究 = Takushoku language studies
巻号頁・発行日
vol.146, pp.239-263, 2022-03-25

本稿では,dentro de 100 metros「100メートル先」という表現におけるdentro deの空間的意味について考察をおこなう。この前置詞句はdentro de 5 minutos「5分後」のように主に時間的意味に使用される表現であるが,この時間的意味のような振る舞いで用いられる空間的意味も存在する。コーパスにおけるこの空間的意味は,用例数は乏しいものの,文法的に問題はなく,容認される。ただし,時間的意味から空間的意味への拡張という,通例とは反対の方向に意味拡張がおこなわれる点について考察をおこなう必要があると考えられる。結論として,この前置詞句は発話時を基準としたとき,空間よりも時間のほうが必ず「先」を表せる点で時間的意味として用いられやすいことを確認した。これに加え,発話時の地点から終点まで断続的に移動することを含意する必要のある空間的意味は時間的意味に比べ,文脈が限定されるため,時間的意味から空間的意味へ拡張しているととらえることが可能であるとした。