著者
鈴木 恭平 我妻 浩二 有馬 慶美 長谷川 俊哉
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第30回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.240, 2011 (Released:2011-08-03)

【はじめに】 踵骨脂肪体萎縮は,踵骨周囲の痛みを主症状とし床面の変化により疼痛が増減するのが特徴である.この疾患に対する理学療法介入例の報告は少なく,今回,歩行時の荷重痛緩和を目的とした理学療法を経験したので報告する. 【現病歴・既往歴】 症例は,45歳男性のダンス講師で,診断名は右アキレス腱炎・足底腱膜炎であった.昨秋,長距離歩行にて疼痛が出現し,他院で加療するも疼痛増強のため当院受診となった.既往歴としては,20年前,右アキレス腱断裂し再建術を行った. 【理学および検査所見】 右アキレス腱停止部から踵骨隆起にかけて荷重痛および圧痛を認め,踵骨下面は弾力性に乏しかった.歩行はInitial contact~Loading responseにかけての踵骨への荷重時間が左と比較して短縮し,その際,荷重痛を訴えた.また,荷重痛は床面によって異なり,硬い路面では痛みが増強した.超音波所見(エコー)として,踵骨脂肪体厚に左右差(右<左)が認められた. 【分析】 本症例は,荷重痛のため踵への荷重を避けて歩行しており,その結果,踵への荷重刺激が減少し,脂肪体萎縮を招き荷重痛が生じるといった悪循環を来たしていると推論した.この病態に対し,踵骨脂肪体へ荷重刺激を与え,脂肪厚増加を図り,荷重痛軽減を理学療法の治療方針とした. 【PT経過】 踵骨脂肪体に対し漸増的荷重練習を行った.踵への荷重痛に応じて,軟らかい路面(クッション使用)から硬い路面へと移行し,漸増的に荷重量を増した.靴にも荷重量制御のためにインソールを作成した.また同時に歩容改善のための運動学習を行った.開始後3ヶ月で,エコーによる踵骨脂肪体厚の左右差は解消し,日常生活でも無痛歩行となったためPTを終了した. 【考察】 本症例の荷重痛は,疼痛回避動作の誘因であると推測される.この動作は踵部への適刺激を減少させ,右踵骨脂肪体萎縮を招き,更なる荷重痛を誘発していたと考える.今回の治療帰結については,漸増的に踵への荷重を促したことにより,脂肪体厚が増加した結果,荷重痛が減少したと推測される.今回の経験から,踵骨脂肪体が衝撃緩衝の役割を果たしており,荷重時に踵骨部の疼痛を訴える場合,脂肪体萎縮の病態を有する症例がそこに含まれる可能性が示唆された.