著者
長野 裕恵
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.105, 2019-03-01 (Released:2019-03-01)

図書館では古くから貸出や入館者などの図書館利用データを使って利用者を把握し,サービス改善に役立てようとしてきました。より多く貸し出されている資料や分野は何か,何時頃入館者が多いかなど,収集されたデータを分析して得られた情報で,蔵書の構成を検討し,サービス体制などを整えている館も多いことと思います。一方で,前述のような図書館の業務フローの中で集まってくるデータばかりでなく,近年はセンサーなどを活用し積極的にデータを収集して利用者の行動や反応を把握しようとする試みも行われています。図書館にもいわゆるビッグデータの波が到来しているのです。このような状況を踏まえ,本特集では以下のような構成で図書館における利用データ解析の移り変わりを検討しました。はじめに,岸田和明氏に図書館利用データを用いた研究の動向を過去から現在にわたり概観していただきました。そのうえで,従来の図書館利用データでは可視化できない部分を新たなデータを用いて把握しようとする実験的事例を2件とりあげました。1件目は電気通信大学附属図書館に設置された革新的アクティブラーニングスペース『UEC Ambient Intelligence Agora』の取り組み,2件目は慶應義塾大学理工学メディアセンターで行われているビーコンと専用スマートフォンを用いた利用者行動把握実験です。このような,センサーや人工知能といった技術を用いて新しく収集されたデータは,今まで図書館員の直観に頼っていたことがらをデータとして可視化するだけでなく,図書館員には見えていなかった利用者行動を知る手掛かりとなる可能性もあります。今後このような実験が広がることが期待されます。なお,従来の図書館業務フローで収集されるデータはもちろんのこと,利用者に紐づくデータについては,個人情報の取り扱いに注意する必要があります。ビッグデータを用いる研究・解析事例が増える中,個人情報保護法ならびに著作権法の改正が行われています。そのため,本特集でも最後にコラムとして,利用データや書誌データなどを用いる際に法的に注意するべき点について弁護士の澤田将史氏にご執筆いただきました。本特集が,図書館においてサービス改善や新たなサービス創出のために,様々なデータを積極的に活用するヒントとなることを願っています。(会誌担当編集委員:長野裕恵(主査),今満亨崇,稲垣理美,久松薫子,古橋英枝)
著者
長野 裕恵
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.151-151, 2018-04-01 (Released:2018-04-01)

今月号の特集は「SNS時代の情報発信を考える」です。本誌では2005年7号で「図書館の発信情報は効果的に伝わっているか?」と題した特集を組み,より効果的な広報の仕方を考察しました。しかし,その後急速に普及したのがスマートフォンです。『情報通信白書』によると,2010年には1割弱であったスマートフォンの世帯普及率は,2016年には7割を超えています。それと並行するようにSNSの利用が増え,全体の約7割の人が何らかのSNSを利用するようになりました。SNSは,情報を発信する側の敷居も下げました。低コストかつ簡単に個人へ情報を発信できるようになったからです。一方で,図書館には発信に値する魅力的なコンテンツやサービスが存在しています。SNSを通じてそれらを発信し,図書館をアピールしようとする動きが広がっています。このような動きを踏まえ,本特集では以下のような構成でSNS時代の情報発信を検討しました。はじめに,岡嶋裕史氏にスマートフォンが普及した現代までの広報の変化を概観いただきました。続けて,ソーシャルメディア・マーケティングがご専門の小野寺翼氏に個々のSNSにおける特徴と使い分け方を紹介いただきました。そのうえで5つの図書館における具体的な事例を寄稿いただきました。前半3例は,SNSを図書館がどのように使っているかをご報告いただきました。東京都立中央図書館では,Facebook,Twitterの特性を活かして使い分けを行っています。九州大学附属図書館では,広報対象を考慮したうえでプラットフォームとしてInstagramを選択し,新館移転の状況を発信しています。一方,鎌倉市図書館ではある1つのツイートがきっかけで注目されると同時に,課題も明らかになりました。後半2例は各図書館内部の力を活用した広報事例です。秋田県鹿角市立図書館では,職員それぞれの得意分野を活かしてLINEスタンプを作成し販売しています。早稲田大学図書館では,教員と協働して図書館所蔵の貴重資料をバーチャルリアリティ(VR)化し,YouTubeを使って発信しています。情報を発信するプラットフォームや技術は変わりましたが,誰に向けて何を発信するのかを考えなければならないのは同じです。2005年の特集と併せ,本特集が新たなプラットフォームをどう活用できるのか,SNS時代にふさわしい情報発信とは何かを考える一助となれば幸いです。(会誌編集担当委員:長野裕恵(主査),小山信弥,田口忠祐,松本侑子,光森奈美子,南山泰之)