著者
廣瀬 毅 間宮 教之 山田 佐紀子 田口 賢 亀谷 輝親 菊地 哲朗
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.128, no.5, pp.331-345, 2006 (Released:2006-11-14)
参考文献数
59
被引用文献数
3

統合失調症は,生涯罹病危険率が人口の0.75~1 %を占める代表的な精神疾患であり,中枢のドパミン作動性神経の過剰活動にその主な原因があると考えられている(ドパミン過剰仮説).過去には,クロルプロマジンを始めとしてハロペリドールなどのドパミンD2受容体アンタゴニスト作用を有する薬剤が数多く開発された.これら定型抗精神病薬は総合失調症の症状の中で,幻覚,妄想および精神運動性興奮などの陽性症状に対しては効果がある反面,情動の平板化,感情的引きこもりおよび運動減退などのいわゆる陰性症状に対しては効果が弱い.安全性の面では,アカシジア,ジストニア,パーキンソン様運動障害などの錐体外路系副作用が多く,高プロラクチン血症が問題になっていた.1990年代に入って,非定型抗精神病薬の概念を確立させたクロザピンに続くオランザピンの開発,リスペリドンを始めとするserotonin-dopamine antagonist(SDA)の開発などで,先述した定型抗精神病薬の欠点の中で特に錐体外路系副作用を軽減することができた.しかし,非定型抗精神病薬の残る副作用として,体重増加,脂質代謝異常,過鎮静作用,心臓QT間隔延長などがクローズアップされ,より安全性と効果の面で優れた,次世代の抗精神病薬の登場が待たれていた.大塚製薬では,1970年代後半より,統合失調症のドパミン過剰仮説にのっとり,シナプス前部位ドパミン自己受容体へのアゴニストの研究を開始した.その後,その研究をシナプス前部位ドパミン自己受容体へはアゴニストそしてシナプス後部位ドパミンD2受容体に対してはアンタゴニストとして作用する新しい化合物の研究へと発展させ,その成果として,ドパミンD2受容体部分アゴニスト,アリピプラゾールを見出した.アリピプラゾールは,ドパミンD2受容体部分アゴニスト作用を有する世界で初めての抗精神病薬であり,既存薬とは異なりドパミン神経伝達に対してdopamine system stabilizer(DSS)として働くことより次世代の抗精神病薬として注目されている.