著者
関 由行
出版者
関西学院大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、マウス始原生殖細胞で起こるゲノム全体のエピゲノム再編成(エピゲノムリプログラミング)を制御する分子基盤の解明とその人為的制御による新規細胞リプログラミング法の開発を行っている。本年度は、生殖系列特異的に発現する転写制御因子PRDM14と始原生殖細胞特異的に発現が抑制されるヒストンH3K9メチル化酵素、G9A/GLPに着目して研究を行った。始原生殖細胞で観察されるPRDM14の発現とG9Aの発現抑制をES細胞で人為的に再現した結果、この2条件を併用した場合にのみ生殖細胞特異的遺伝子群、核移植胚異常遺伝子群、2細胞期胚特異的遺伝子群の顕著な発現上昇が観察された。またPRDM14とG9Aの発現抑制の併用条件においてこれらの遺伝子領域のDNA及びH3K9の脱メチル化が増強されることが明らかとなった。これらの遺伝子群はin vivoの始原生殖細胞の後期(生殖巣到達後)に脱メチル化されることが示されており、またその直前にゲノム全体のH3K9が脱メチル化されることを報告している。そこで、これらの遺伝子領域に存在するH3K9のメチル化が、PRDM14の標的領域への結合を阻害している可能性を検証するために、未処理、PRDM14単独、G9A欠損、PRDM14/G9A欠損の4条件におけるPRDM14の標的領域への結合をChIP-qPCRで比較した。その結果、PRDM14単独では生殖細胞特異的遺伝子群、核移植胚異常遺伝子群、2細胞期胚特異的遺伝子群への結合は弱かったが、G9Aを欠損させることでその結合が劇的に上昇することが明らかとなった。これらの結果より、始原生殖細胞はPRDM14の発現誘導とH3K9の脱メチル化という2つの経路を駆使することで、初期化に抵抗性を示す遺伝子領域の初期化を行っている可能性が考えられる。また、この研究成果はPRDM14とG9Aの機能阻害の併用による新規細胞リプログラミング法の開発に繋がるであろう。