著者
関口 翔太
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

細胞質一核間の物質輸送は、核膜に存在する多数の孔(核膜孔)を通して行われている。この核膜孔は、細胞膜と共に遺伝子導入における障壁として存在し、このために効率的な遺伝子発現が行えないことが知られている。したがって、細胞膜や核膜孔を効率的に通過するマテリアルの作製及びその通過メカニズムの解明は、遺伝子導入における重要課題とされている。本研究は、これまで申請者が作製してきたナノ微粒子をツールとして、細胞膜や核膜孔を通過するマテリアルを作製し、それらの通過メカニズムを解明することが目的である。研究計画にしたがって、目的であるナノ粒子の核移行性の付与とそのメカニズム解明を達成することが出来た。本年度は更に、遺伝子導入におけるもう一つの障壁である細胞膜を通過するマテリアルの作製を行った。細胞膜は脂質二分子膜で構成されており、その内部が疎水性空間になっていることが知られている。しかしながら、ナノ粒子は一般に親水性であるため、この膜を通過することができない。そこでナノ粒子に、親水性、疎水性の双方に親和性のある両親媒性を付与することで膜の通過が可能になると考えた。作製した両親媒性ナノ粒子は、細胞膜のモデルとして知られているリボソームを、膜陥入によって通過することが分かった。この現象は実際の細胞膜でも観察され、両親媒性ナノ粒子は細胞内に効率的に取り込まれることが分かった。この粒子の細胞膜通過性とこれまでの成果である粒子の核移行性を合わせることができれば、遺伝子導入や核酸医薬へ応用する上で有用な手段となる。この成果は、現在論文としてChemical Communications誌に投稿中である。(S. Sekiguchi et al., Chem. Commun. 2013, in submission)