著者
寺川 進 阿部 勝行 櫻井 孝司
出版者
浜松医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

取り扱いが容易でかつ最も高性能の、超高開口数対物レンズ使用のエバネッセンス顕微鏡を目指して、その照明用光束の導入法について調べた。レーザー光直接方式、円錐ミラー方式、単一モードファイバー方式を比較したところ、単一モードファイバー式が安全性、視野の広さ、簡便性において優れていた。この方式はメーカーの採用するところとなった。しかし、装置は高価で、やや不安定性があり、直接方式にも利点があった。エバネッセンス法を用いて、クロマフィン細胞やβ細胞の開口放出の動態を調べた。両細胞で顆粒内の蛍光物質がフラッシュ反応を伴って放出され、その大きさは顆粒によって大きく異なることが明らかとなった。このフラッシュは、顆粒内から細胞外へ向かう水の噴出を示していた。レーザートラップ法で細胞近傍に微小ビーズを把持すると、分泌に伴いビーズがパルス状に動くことが確認できた。従って、顆粒の内容物は単に拡散で外に出るのでなく、穎粒から同時に噴出する水に乗って外に出ることが分かった。この水流の強さは顆粒膜に在るClチャネルの密度で決まり、抗体法によって観察したチャネル密度は顆粒によって大きくばらついていた。Clチャネル阻害剤は開口放出を抑えずにフラッシュ反応を抑えた。これらのことより、顆粒ごとにその放出の強さが大きく異なっていることが明らかになった。さらに、β細胞においては、顆粒からの放出直後にも、顆粒は細胞膜に結合したまま横方向に移動することが明らかになった。顆粒内物質は完全に放出されずに残留し、リサイクル後に再充填される可能性が示唆された。以上の結果を、すでに観察した共焦点顕微鏡による顆粒蛍光の段階的な減少の観察結果と合わせると、内分泌系の細胞では、開口放出に際しての信号物質の放出は量子的には起こっていないことが結論され、いわゆるquantal仮説は成り立たず、より複雑な調節作用が存在することが結論された。