著者
鈴木 聡 阿部 悟朗 尤 郁偉 石橋 秀昭 伊藤 理
出版者
特定非営利活動法人 日本脳神経外科救急学会 Neurosurgical Emergency
雑誌
NEUROSURGICAL EMERGENCY (ISSN:13426214)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.73-79, 2021 (Released:2021-03-24)
参考文献数
9

口腔内不衛生に起因し,中枢神経障害を主たる症状とする重症感染症二例を経験した.症例1は53歳の男性.発熱とけいれん,意識障害にて救急搬送された.頭部・顔面CT検査にて,左硬膜下膿瘍が存在すると共に,上顎洞から前頭洞にかけて広汎に膿が貯留していた.細菌培養にてα‒streptococcusが同定された.抗生剤大量投与にて頭蓋内感染は鎮静化した.齲歯が多数見られた.未治療の糖尿病もあり,口腔内の不衛生と糖尿病が相まって歯性上顎洞炎,硬膜下膿瘍を来したものと考えられた.症例2は63歳の男性.発熱とけいれん,意識障害にて救急搬送された.頭部CT・MR検査にて,頭蓋内に散在する出血巣と梗塞巣あり.心エコー検査にて僧帽弁に疣贅が見られた.感染性心内膜炎に伴う心原性脳塞栓症,細菌性動脈瘤破裂に伴う脳出血と考えられた.血小板減少もあり,播種性血管内凝固症候群(DIC)を呈していた.細菌培養にてStaphylococcus aureusが同定された.抗生剤大量投与,トロンボモデュリン投与を行い,感染症,DICは改善の方向に向かったが,腎不全の進行,頭蓋内出血にて来院4日後に死亡された.口腔内不衛生に伴う全身感染症・中枢神経障害は,稀ではあるが重篤な転帰をもたらすことがある.口腔内ケアが困難か怠っている患者,あるいは後天性免疫不全症候群など重度な免疫不全状態にある高リスク患者ではなく,一般市民に起きた事も注目すべき点であると考える.