著者
吉田 武義 大口 健志 阿部 智彦
出版者
日本地質学会
雑誌
地質学論集 (ISSN:03858545)
巻号頁・発行日
no.44, pp.263-308, 1995-11-30
被引用文献数
22

新生代東北本州弧における火山岩組成の時間的・空間的変遷を検討した結果, それらを供給した島弧下マントルウェッジには3種の起源マントル物質, (1) エンリッチした大陸性マントルリンスフェア, (2) 島弧性最上部マントルリソスフェア, (3) 枯渇した島弧性アセノスフェアが存在していたことが確認された。東北本州弧, 陸弧活動期(〜21 Ma)には, 大陸性マントルリンスフェアが特に背弧側マグマ起源マントルを構成しており, その上部の最上部マントルに地球化学的不均質性の著しい(島弧性)最上部マントルリンスフェアが分布していた。背弧海盆拡大に関連して, 背弧側深部に島弧性の枯渇したアセノスフェアが侵入し, 背弧側のマントル内温度が上昇した結果, 背弧側最上部マントルを構成していた島弧性マントルリソスフェアが溶融して, 火山弧を火山フロント側から背弧側へと横切る広域組成変化傾向が不明瞭となった。その後, 背弧側マントルの温度低下と, 火山フロント側最上部マントルの温度上昇が続き, 背弧側ではより深部に位置していた, 枯渇した島弧性スピネルカンラン岩質アセノスフェアに由来するマグマが分離上昇を始め, 火山フロント側ではよりエンリッチした斜長石を含むカンラン岩からなる, 最上部マントルリンスフェア由来の低アルカリソレアイトが分離上昇して, 第四紀火山活動を特徴づける組成の広域変化が形成された。第四紀における火山フロント側および背弧側マグマ起源マントルはそれぞれ, マントルウェッジ内で地震学的に認められる火山フロント側低速度域と背弧側低速度域に対応している。両者の間には組成不均質性があり, 中期中新世以降, 少なくとも同位体組成的には均質化していない。