著者
阿部 貴子
出版者
智山勧学会
雑誌
智山学報 (ISSN:02865661)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.0119-0139, 2020 (Released:2021-04-06)
参考文献数
48

本稿は『声聞地』の成立背景を探るために、不浄観に関する所説を考察するものである。特に、他の経論との接点が認められる体内の36種、死体の10種、墓場の4種、内外の観察という観点について、阿含経典、阿毘達磨論書、禅経典と比較した。 これにより、『声聞地』の不浄観は、『念処経』(Smṛtyupasthānasūtra)に基づきながら、細部の解説や法数については『雑阿含経』や『集異門足論』『法蘊足論』『婆沙論』と近い語句を用いていることが分かった。 不浄観をはじめとする五停心観という枠組みは、これまで禅経典の影響が指摘されてきたが、その内容は―五停心観の他の瞑想方法と同様―ほとんど相応しない。むしろ、阿含経典の所説を取り上げ、『法蘊足論』『集異門足論』『婆沙論』などの初期阿毘達磨論書と同様の法数や語句で補強しながら自説を展開しているといえる。