著者
阿部 隼平 齊藤 明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1392, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】膝関節筋は大腿遠位1/3で中間広筋の深層から起始し,膝蓋上包の近位後面に付着する筋である。膝蓋上包の後上方への牽引作用を有し,膝蓋上包の癒着や膝関節拘縮予防において重要な役割を持つとされている。体幹においては,腹横筋や多裂筋など関節近傍の深層に位置し,筋長の短いローカルマッスルの強化には低負荷での運動が適しているとの報告がある。膝関節筋は形態的にはローカルマッスルと同様の特徴を有するため,その強化には低負荷での運動が適している可能性があるが明らかにされていない。本研究の目的は,低負荷と高負荷のトレーニング効果の比較から,より膝関節筋に適したトレーニング方法を検討することを目的とした。【方法】健常大学生30名30肢を対象とし,コントロール群,低負荷介入群,高負荷介入群の3群に振り分けた。トレーニングは股関節90°屈曲位,膝関節最大伸展位での等尺性膝関節伸展運動とし,等尺性筋力測定機器MusculatorGT30(OG技研社製)を用いた椅子座位にて体幹,骨盤,下腿遠位部をベルトで固定した。負荷量は,同肢位にて等尺性最大随意収縮力(Maximum Voluntary contraction:以下MVC)を測定した後,低負荷群は40%MVC,高負荷群は70%MVCとした。収縮時間は低負荷群で15秒,高負荷群で6秒とし,その他の条件は両群とも10回/セット,3セット/日,2日/週とした。以上の条件で,等尺性筋力測定装置を用いて視覚的に負荷量を確認しながら4週間トレーニングを継続させた。トレーニング効果を検証するため,各群とも介入前後に膝関節筋筋厚,膝蓋上包前後径,膝関節筋停止部移動距離を超音波診断装置HI VISION Avius(日立アロカメディカル社製)を用いて測定した。測定には14MHzのリニアプローブを使用しBモードで行った。膝関節筋筋厚は筋膜間の最大距離,膝蓋上包前後径は腔内間の最大径とした。膝関節筋筋厚,膝蓋上包前後径はそれぞれ安静時に対する収縮時の増加率を算出した。また,膝関節筋停止部移動距離は安静時の画像上で膝関節筋停止部に任意の点を定め,等尺性膝伸展運動時の同部位の移動距離を求めた。この移動距離は膝蓋上包が膝関節筋により挙上された距離と定義した。統計学的解析は各測定項目において,各群における介入前後の比較には対応のあるt-検定を用い,介入後の変化量の群間比較には一元配置分散分析およびTukeyの多重比較検定を用いた。統計処理にはPASWStatics18を用い,危険率5%未満とした。【結果】介入前後の比較では,安静時膝関節筋筋厚,膝関節筋筋厚増加率,膝蓋上包前後径増加率は,3群全てで有意差は認められなかった。膝関節筋停止部移動距離は低負荷群において介入後に有意に増加していた(p<0.01)。高負荷群においても,統計学的な有意差を認めなかったが,増加傾向が認められた(p<0.10)。介入後の変化量の群間比較では,膝関節筋停止部移動距離において,低負荷群,高負荷群ともにコントロール群と比較して有意に増加していた(それぞれp<0.01,p<0.05)。【考察】本研究では低負荷群のみで膝関節筋の主な働きを反映する膝関節筋停止部移動距離の増加がみられたことから,膝関節筋は仮説の通り機能的にもローカルマッスルと同様の特徴を有することが示唆された。しかし高負荷群においても増加傾向が見られ,介入後の変化量でも低負荷群との間に有意差は認められなかった。このことから,高負荷での膝関節伸展トレーニングによっても膝関節筋の強化が図れる可能性があると考えられる。一方で膝関節筋停止部移動距離の増加がみられた低負荷群においても,膝蓋上包前後径増加率には有意な変化は認められなかった。膝関節筋は後上方への牽引作用を有するが,特に後方への牽引作用を反映していると考えられる膝蓋上包前後径増加率は増加しなかったという結果から,膝関節筋は後方への牽引作用と比較して上方への牽引作用がより強い可能性が考えられる。以上より,膝関節最大伸展位での等尺性膝関節伸展運動は,その負荷の大小に関わらず膝関節筋機能の向上に寄与すること,膝関節筋は後方への牽引作用と比較して上方への牽引作用がより強いことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は,膝蓋上包の癒着および膝関節拘縮予防のための運動療法を行う上で有用なデータとなると考える。また,今後の膝関節筋に関する研究を発展させていく上での一助となると考えられる。