著者
陳 海茵
出版者
カルチュラル・スタディーズ学会
雑誌
年報カルチュラル・スタディーズ (ISSN:21879222)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.97, 2017 (Released:2019-10-09)
参考文献数
28

本論文は、毛沢東時代の終焉と改革開放という決定的な政治的社会的転換期1970 年代の 中国現代アートを対象に、それが「政治当局に抵抗する芸術」あるいは「欧米の後を追う芸術」 という立場をアプリオリの前提にするのではなく、(1)作品創作、(2)展示活動、(3)語り、 といった個別具体的な場面で、「政治」、「社会」、「芸術」の間にどのようなせめぎ合いが行 われたのかについて考察する。ここで念頭に置かれるのは、西欧社会の文脈から発展して きた「社会を志向する芸術実践」やアート・アクティビズムの動向である。共産圏国家に おいてアートがいかなる意味とやり方で連帯を創出しうるのかについて明らかにし、中国 現代アートの一事例をグローバルな同時代性の中に接続することを試みる。 ここでは事例として文革直後に結成された「星星画会」というアマチュア芸術家集団を 取り上げる。彼らは政府に無許可で展覧会を開き、その活動は最終的には「政治の民主化」 や「芸術の自由化」を求めるデモへと発展した。「星星画会」の芸術家たちは独自のやり方 で自分たちの正当性を主張した。一つには、民主化運動の拠点だった「民主の壁」を始め とする公共空間を展示空間に作り変えることで排除ではなく包摂の政治を要求した。また、 政府御用の芸術が持つ「技術」や「伝統」に対して、現代アートにおける「思想」と「現 代性」を指摘し、「自己表現」というプライベートな領域を開くための概念を強調すること で、それまで社会に奉仕するための道具でしかなかった社会主義的な「個体」を脱構築した。 ここでは近代個人主義ではなく、自由、民主、多様性といった反・文革的な文脈性やメッ セージ性のもとで「自己」を捉え直すことへと注意を向けさせようとしていたのである。