著者
陳 碧珠
出版者
国際基督教大学
雑誌
国際基督教大学学報. I-A, 教育研究 (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.195-202, 2006-03

日本における華僑・華人コミュニティは,歴史,文化の両面においてコリアン・コミュニティに次ぐ大きなエスニック・コミュニティである.在日華僑・華人の経済・政治的プレゼンスに関する研究も見かける.特に,在日華僑・華人の多くはバイリンガルあるいはマルチリンガルであるが,これらバイリンガリズムに関する記述を試みた論文は皆無に近い.本論文は日本におけるコミュニティ言語の多様性の側面に注目したものである.在日華僑・華人の社会言語学的状況やその個人がどのように中国語や中国文化を保持しているかを把握するために,日本の華僑・華人コミュニティにおける社会的ネットワークを調査した.本論文は,英国,ニューヨークやシンガポールで行われた研究を補完するものであり,それらの記述モデルを参考に考察をすすめている.主な観点は次の四つに大別される:'華僑・華人コミュニティの背景','言語使用のパターン切り替え','言語,文化,コミュニティ',と'教育,言語の再生'.これら4つのパラメーターから東京,横浜地域在住の華僑・華人コミュニティを観察した.中国の経済面での台頭,マスメディアを通じたグローバルなつながり,さらに中国人の移動性(diaspora)によって,中国語が今後,より重要になってゆくように思われる.予想に違わず,在日華僑・華人ファミリーの子供たちは,日本語にシフトしていた.しかしながら,日本語への言語シフトは止まらないが,おそらく,中国語は,エスニック・アイデンティティの証として,或いはそうでなくとも今後も学ばれ続けるであろう.