著者
隅 優子 山下 小百合 後藤 剛 渡利 一生
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Eb0606-Eb0606, 2012

【はじめに、目的】 当院では、他の診療機関にて筋萎縮性側索硬化症(以下、ALS)の確定診断を受けた長期療養患者を受け入れており、ALS患者の在宅生活を支援すべく、訪問看護ステーション、ヘルパーステーション、介護支援室を開設し、その一環として訪問リハビリテーション(以下、訪問リハ)を開始した。今回、訪問リハ開設から現在までの利用者の動向を調査した。また、現在利用中のALS患者の問題点と訪問リハの内容を、担当理学療法士(以下、担当PT)及び家族へアンケートにて調査し、各々に相違がみられるか比較検討した。【方法】 利用者の動向調査は、平成12年1月~平成23年10月の期間に当院の訪問リハを利用したALS患者21名(男性11名、女性10名)を対象とし、過去の診療録をもとに調査した。調査内容は、訪問リハ開設から現在までの利用者数、利用期間および訪問リハ開始時と終了時もしくは現在の寝たきり度、使用していた医療機器、福祉機器、利用していたサービスである。また、現在利用中のALS患者のアンケート調査は、平成23年10月現在の利用者8名(男性5名、女性3名、平均年齢69.3±13.8歳)を対象とし、担当PTに対しては「現在の問題点」と「リハビリの内容」、家族に対しては「家族が考える問題点」と「利用者に必要と思うリハビリの内容」を調査した。これらはあらかじめ各々10項目ずつ選択肢を挙げておき、優先順に5つ選択する形式をとった。「現在の問題点」及び「家族が考える問題点」の選択肢は、関節可動域(以下、ROM)制限、筋力低下、痛み、坐位・立位保持困難、移乗困難、移動困難、コミュニケーション困難、排痰困難、外出困難、日常生活動作(以下、ADL)困難の10項目を挙げ、「リハビリの内容」及び「利用者に必要と思うリハビリの内容」の選択肢は、ROM訓練、筋力訓練、疼痛に対する徒手療法、坐位・立位訓練、移動訓練、コミュニケーション訓練、排痰訓練、外出支援、ADL訓練の10項目を挙げた。【倫理的配慮、説明と同意】 第47回日本理学療法学術大会で発表するにあたり、ご家族の同意を得ており、個人情報の管理には十分配慮した。【結果】 平成12年1月に訪問リハのサービス提供を開始し、その年の利用者は3名、翌年は4名と徐々に増え、平成20年、21年、22年は11名と最も多かった。現在の利用者は8名で、これまでの利用者総数は21名である。平均利用期間は36.3±36.8カ月で、最も長い利用者は11年9カ月であった。訪問開始時の寝たきり度はA-1が1名、A-2が4名、B-1が7名、B-2が1名、C-1が2名、C-2が6名であったが、現在または終了時になるとB-2が2名、C-2が19名であった。使用している医療機器では、NIPPV使用が2名から0名、在宅酸素は4名から6名、気管カニューレは10名から18名、人工呼吸器は10名から16名、胃ろうによる栄養注入は9名から16名へと変化していた。福祉機器では、ベッドの使用が19名から20名、車いすの使用は開始時、終了時ともに16名、杖・歩行器は5名から0名、ポータブルトイレは5名から3名、移動用リフトは0名から2名、伝の心等のコミュニケーション機器は0名から1名へと変化していた。他のサービスでは、全員が開始時、終了時ともに訪問看護、ヘルパーを利用しており、過半数の方がレスパイト、訪問入浴を利用していた。現在、8名の訪問リハを行っており、寝たきり度は全員C-2で人工呼吸器を装着している。家族へのアンケート結果から利用者の問題点として「コミュニケーション困難」と答えた方が100%、「ROM制限」が87.5%、「ADL困難」が75.0%であった。担当PTでは「ROM制限」が100%、「筋力低下」が87.5%、「排痰困難」が75%であった。家族が利用者に必要と思うリハビリの内容は、「ROM訓練」が100%、「排痰訓練」が75%、「筋力訓練」が75%であった。担当PTでは「ROM訓練」が100%、「疼痛に対する徒手療法」が87.5%、「排痰訓練」が75%であった。【考察】 動向調査から、利用者は徐々に増加しているが、その中に占めるランクB・Cの割合も増え介護負担の大きい家族も多いのではないかと考える。アンケートでは、家族はROM制限以外にコミュニケーションやADLを問題と考えていたが、担当PTでは低い結果となった。また、ROM訓練や排痰訓練は家族・担当PTとも必要と考えていたが、筋力訓練に関しては担当PTでは低い結果となった。今後は家族が問題と感じている点を調査し、リハビリの内容だけでなく福祉用具の検討などアプローチに繋げると共に、家族に対し訪問リハの実施計画を十分説明し、お互いが共通認識を持ったうえでサービスを提供することが必要と考えた。【理学療法学研究としての意義】 ALS患者は進行に伴いADLや意思疎通が困難になるにつれ、家族の負担も大きくなる。その中で訪問リハの担当PTと家族の意見を一致させることは重要であり、今回の取り組みは意義があったと考える。