著者
隅田 寛 瀧村 洋子
出版者
コ・メディカル形態機能学会
雑誌
形態・機能 (ISSN:13477145)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.21-26, 2003

大脳動脈輪は左右対称に描かれていることが多いが、実際には変異が多く、左右非対称例も多い。大脳動脈輪の左右非対称性について知識を有することはコメディカル分野においても重要である。たとえば診療放射線技師にとっては、脳血管造影読影を誤らないために必要である。今回、左右非対称大脳動脈輪と下小脳動脈の一例に遭遇したのでその形態について観察した。<BR>中大脳動脈の径に左右差は認められなかった。右前大脳動脈交通前部は左に比べて極めて細かった。通常と異なり、前交通動脈の太さは左前大脳動脈と同等であった。この例では、前大脳動脈交通後部は左前大脳動脈の延長として構成されているように見えた。後交通動脈に関しては、右に比較して左側が極めて細かった。また、右後大脳動脈交通前部も極めて細く、右後大脳動脈交通後部は右後交通動脈の延長として構成されているようにみえた。<BR>その他に、左前下小脳動脈は通常に脳底動脈から起始していたが、右前下小脳動脈は椎骨動脈から起始していた。また、左後下小脳動脈に比較して、右後下小脳動脈の径は極めて小さかった。<BR>今回の例は、交通動脈の変異としては左右非対称の代表的なパターンに当てはまる。しかし、椎骨動脈から起始する前下小脳動脈に関しては、このような変異の報告は少なく、本例は数少ない例かも知れない。<BR>血流に関して、右後頭葉はおもに右内頚動脈からの血液を受けていたことが類推される。また、右前頭葉は右内頚動脈からよりもむしろ左内頚動脈からの血液を受けていたことが類推できる。このように、大脳半球に分布する動脈血流の左右差は小さかったものと思われるが、仮に内頚動脈や椎骨動脈が動脈硬化等による血流障害を起こしたとすれば、血流障害の原因となった動脈の血液循環経路から通常に予想される症状とは異なる症状を呈した可能性がある。