著者
青山 肇紀 青山 道信
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学
巻号頁・発行日
vol.12, pp.190-214, 2019

<p>人々の消費行動における異時点間の選択は普遍的な課題である.双曲線型割引関数を持つ個人が事前の意図より過剰消費し,コミットメントより自己資産の流動性を制約する自己統制の問題は家計資産の選択に決定的に重要である.本稿は大阪大学が実施した「暮らしの好みと満足度に関するアンケート」のパネルデータを用いて2009年から2012年までの4年間に日本,米国,中国,印度の4カ国を対象に,家計の割引構造,消費と所得・資産の限界消費性向を統計学的に実証分析したものである.双曲線型割引関数を持つ家計は,その比率が日本で21%,米国で14%と顕著に違い,過剰消費のアノマリーが中国で確認されず日米印で確認された.消費と所得との連動性が米国(非線形)と印度(線形)で確認されたが,日本では連動性が弱く,負債との連動が確認された.米印における固定資産の限界消費性向が有意に正で,金融市場におけるイノベーションが過剰な流動性を供給しコミットメント効果を希薄化する中で家計の自己統制の変化,及び限界消費性向のシステマティックな上昇の可能性が示唆された.</p>