著者
青山 英幸
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.23-46, 2015-06-30 (Released:2020-02-01)

この覚書は、2013年1月から2014年7月までに、公文書管理法体系の一部改正――閣議議事録の作成など――が検討された経緯を跡づけ、旧情報公開法体系の「車の両輪」遺産を継承したこの法体系につぎの問題があると指摘した。a)この法体系の「行政文書」の範疇に含まれないドキュメント/レコードとして、1)ドキュメント/レコードの一部として機能している市販刊行物など、2)公文書管理法以外の法律にもとづく「法定ドキュメント/レコード」、3)非「共用文書」としての「メモ」ドキュメント/レコードがあること、b)特定秘密保護法により2)のドキュメント/レコードの領域が一層拡張されたこと、c)閣議議事録などの真正性が3)の「メモ」ドキュメント/レコードと位置づけられ会議構成員の確認行為の欠落により損なわれていること、それとともに、閣議議事録作成のあらたな「神話」が発生しつつあると示唆した。これら諸課題を解決する方途として、各府省庁ドキュメント/レコードは国民の財産であるという観点から、公文書管理法と情報公開法の見直し、「行政文書」と上記1)から3)を「パブリック・ドキュメント/レコード」“Public Docurments/ Records”へ統合し、これら国民の財産を適正にコントロールするArchives Records Management: ARM を強力に推進する機関の創出に言及した。
著者
青山 英幸
出版者
日本アーカイブズ学会
雑誌
アーカイブズ学研究 (ISSN:1349578X)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.46-83, 2016

<p>この点描は、2014年11月『アーカイブズ学研究』編集部からの問いあわせがきっかけで、数回の打ち合わせののち、1980年代以降のヨーロッパ文化圏のアーカイブズ・コミュニティにおける国際協力の動向を、アジアのもっとも北東にいるわれわれの同業者たちに紹介することとした。それは、ふたつの分離したプロフェッション・コミュニティ――ひとつはアーキビストでローマ文明にルーツがあり、もうひとつはアーキビストからの分派、レコードマネジャーで、1950年代半ばに合衆国で発生し新大陸に普及――、これらの統合について議論がなされてきたこと。そして、電子環境下の1990年代から2000年代にかけて、DNAとして埋め込まれたライフ・ヒストリーのメタデータによってコントロールされる情報/オブジェクト――ドキュメント――レコード――アーカイブズの連環実体に関するアーカイブズ・レコード・マネジメント:ARMについての国際標準が、ICAやISOによって公表され、理論と方法論および実務フレームワークにおけるアーカイブズ科学とアーカイブズ学教育が確立してきたことである。このような動向がこの時点でなぜ、どのようにして起こったのか、という疑問が生じるとすれば、どんな答えをわれわれは用意することができるのであろうか。たとえば、カナダのアーキビストTerry Cookによる1990年代半ばの論文――現代アーカイブズの古典<i>Dutch Manual</i>の再評価――は、答えを明確にあるいは暗に示唆するであろうか。おそらく、これらのプロフェッションの統合についてのひとつの道筋を語るであろう。オランダ・アーキビストP. J. Horsman、F. C. J. Ketelaar、T. H. P. M. Thomassenたちによる「<i>ダッチ・マニュアル</i>入門」によると、アーカイブズの科学と方法論の諸原則は、オランダにおけるアーカイブズ・コミュニティの固有な歴史背景にもとづいて発生し、定式化したことを明示しており、また同時に、それら諸原則は、共通した歴史背景――ポスト・ナポレオンのヨーロッパにおける学問という知性の揺りかご全体がもたらした、と指摘している。それで、この点描では、イタリアとカナダのアーキビストLuciana Durantiの1980年代末から1990年代後半にいたる一連の諸論文と、ほかのアーキビストや歴史家の論文などによって(ただし英語論文を主とする)、ヨーロッパ文化圏におけるアーカイブズとその科学の歩みを読むことにしよう。これは、先の答えを与えるだけでなく、アーカイブズ世界のより一層豊かな理解をもたらすであろう。しかし、筆者はチャートもコンパスもない素人。この航海が無事であるのを祈りつつ、筆を下ろそう。</p>