著者
青木 利彦
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0094, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】人工膝関節全置換術(TKA)術後早期の異常歩行パターンの一つとして,Double knee actionの低下を臨床上経験する。原因として疼痛や荷重応答期での膝伸展モーメント減少により衝撃吸収機能が低下することなどが報告されている。我々は中高齢者で普及しているノルディックウォーキング(NW)がTKA後早期に膝伸展筋の負担軽減型歩行になると報告しており,今回,NWがDouble knee actionの改善に有効な歩行運動となりえるかを,独歩,および杖歩行と比較検討したので報告する。【方法】変形性膝関節症に対してTKAを施行し術後3週経過後に独歩可能となった10名の女性(年齢76.3±7.0才)を対象とした。課題動作は10m直線歩行路における自由速度での独歩,1本杖歩行(1本杖),およびジャパニーズスタイルのNWとし,表面筋電図と床反力計を用いて検討した。表面筋電図は術側の内側広筋(VM),外側広筋(VL),大腿二頭筋(BF),前脛骨筋(TA),下腿三頭筋(GS)を被験筋として表面筋電図を測定し,筋毎に%SWDM(Segment Weight Dynamic Movement)法にて振幅を正規化し,歩行1周期の平均筋放電量を求めた。床反力計は直線歩行路に埋め込み,術側下肢と対側に使用する杖の鉛直成分を計測した。計測値は飯森らの方法を使用し,第一,第2の山をF1,F2,F1とF2の間の谷をF3,立脚時間をTとしknee functional score(KF値)を算出(KF=(F1-F3)+(F2-F3)/T)しDouble knee actionの円滑さの指標とした。また下肢の着床と杖・専用ポールの着床時間の差を各々の鉛直成分検出時間の差で求めた。試技は各課題を3回実施し最大値の平均値を計測値とした。歩行様式間の比較には1元配置分散分析を行い,主効果を認めた場合は多重比較を行った。下肢と杖・専用ポールの着床時間の差はt検定を用いてNWと1本杖を比較検討した。【結果】表面筋電図での平均放電量(%SWDM)で主効果を認めたのはVMで,NW(51.8±9.0)は,独歩(58.2±10.1),1本杖(57.3±10.2)より低く,VLもNW(46.5±11.1)は,独歩(54.3±11.8),1本杖(52.4±11.8)より低い値となった(p<0.05)。床反力では,下肢の着床と杖・専用ポールの平均着床時間はNWが下肢着床前0.06秒で,1本杖は着床後0.13秒と2群間に有意な差を認めた(p=0.00)。また,KF値はNW(267.31±65.76)は独歩(170.30±46.82),より有意に高い値を示し(p=0.003),1本杖歩行(213.21±50.74)より高まる傾向が見られた。【結論】NWは上肢を大きく前後に振る様式であることから独歩や1本杖と比べ下肢の着床前にポールを床につきやすくなりVM,VLの能動的活動の抑制に貢献し,荷重と抜重の円滑さに作用したと考えられた。膝伸展筋の筋力低下を来たしやすいTKA術後早期のNWは,独歩,1本杖歩行と比べ,膝伸展筋活動の負荷軽減型の歩行様式であり,Double knee actionを改善する作用が得られる歩行運動である可能性がある。