著者
青木 幸平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0207, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】張らは人工神経回路網による眼球運動制御モデルを作成する際に,網膜への刺激や頭の傾き(網膜誤差)だけでは人の滑らかな眼球運動が再現できず,外眼筋の求心性情報が重要であると述べている。この眼球運動には頚部の動きが伴う。そこで眼球運動にエラーが生じれば頚部の不良肢位を生じ,頚部由来の痛みや痺れが発生すると考えられる。そのため一般的な体を正中位に改善させるリハビリでなく,外眼筋に着目し治療を行い効果を得られたため以下に報告する。【方法】症例は60代男性。パソコンの使用頻度(左側)が多く座位姿勢は体幹右回旋し頚部左側屈・左回旋位で「まっすぐ座れている」と言語化。座位で右肩甲帯上部から上・前腕外側や母指・示指にかけて痺れがみられ,spurling testでVAS7/10に増強。頚部の右回旋・側屈はC6~Th1の過剰運動が見られた。右上肢は全体的に過緊張。右側のものを中心視野で捉えようとすると若干ずれが生じた。痛みの原因は右回旋・側屈時のC6~Th1の過剰運動が原因と考えられるが,頚部は眼球運動との関連が強い。眼球運動は対象物を中心視野にとどめ見やすくする機能を持つが,長時間の随意的な追視は困難であり,反射が必要である。網膜誤差や外眼筋の伸張感覚により非意識的に外眼筋を制御し追視する反射は,より求心性情報に依存する。これらの求心性情報にエラーが生じた状態では中心視野に対象物を留めにくく不明瞭。そのため運動制御が行われやすい情報を優位にシステムを構築するような代償が生じることが予想される。これらの考えより,長時間の左側作業により外眼筋の内外側で求心性情報に不均等が生じ,網膜情報を中心に眼球を制御するように代償したため右側では外眼筋が働きにくくC6~Th1の過剰運動を引き起こし痺れを生じさせたと考えた。治療肢位は座位。9つに区切られた板を正面より60°に置き,その番号の位置を記憶。閉眼し眼球をセラピストの介助でリーチした手に追随後開眼。リーチした番号と共に手を視野の中心で捉えられているかを確認させた。これを左・右の順番で行った。【結果】spurling testはVAS2/10となり上位頚椎から滑らかな運動が可能となり右上肢の過緊張も軽減した。座位は「真っ直ぐ保ちやすくなった」と言語化し正中位保持が可能となった。【結論】今回の結果より,眼球運動の求心性情報のエラーにより痺れが生じる可能性が示唆された。眼球運動は様々な情報(前庭・網膜・眼輪筋等)の統合により適切な制御が可能となる。反射の制御は伸張反射など四肢のみでなく眼球運動にも存在し,この反射が適切な形で制御されなければ,対象物が動くたびに身体の正中性が崩れるような負の学習がなされる。またこの反射は頭頂・後頭葉により制御されるが,主に随意運動を制御する前頭眼野と小脳を介しシナプス結合が強いことから,随意運動にて反射制御が可能ではないかと考えられた。