著者
青木 香保理
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.97, 2008

【目的】<br> 城戸幡太郎は1951~1954年に小山書店(後に、生活百科刊行会)から刊行された『私たちの生活百科事典』(全20巻)の編集を行っている。同事典は、城戸による家庭科教科書である『わたしたちの生活設計』と連動する著作であり、「大項目、中項目、小項目等に分類し、小・中学校の教科内容を全部包含する」新しい《事典》で、家庭科のみならず教育課程の全体を視野に入れた新しい構想の具体化として編集された。 本報告では、_丸1_小山書店と『私たちの生活百科事典』の刊行に纏わる経緯、_丸2_事典としての特色と、事典の内容・記述の特長を中心に行い、城戸が構想した『私たちの生活百科事典』の構造をもとに、城戸の生活把握について述べる。<br>【方法】<br>文献研究による。<br>【結果】<br>_丸1_小山書店と『私たちの生活百科事典』の刊行に纏わる経緯<br> 『私たちの生活百科事典』(小山書店)の刊行の経緯は、小山久二郎(おやまひさじろう、1905-1984)著『ひとつの時代-小山書店私史-』(六興出版、1982)に詳しい。同事典刊行後の1955~1956年に、『わたくしたちの生活百科事典 学生普及版』が出されている。『私たちの生活百科事典』は、1951年に第5回毎日出版文化賞(毎日出版文化賞は1947年に創設)企画部門賞を受けている。同事典は、書店・読者・出版社の三者をつなぐ、書物の選定購入に関する読者の便宜の増進と販売をめぐる合理化と共同化により刊行される。_丸2_事典としての特色と、事典の内容・記述の特長『私たちの生活百科事典』は大項目式の事典である。事典は日常生活の必要から誕生し、社会の進展に伴いその形態は多様化した。知識の膨大化と知識を表す言葉の増加によって、言葉をアルファベット順に並べて説明する単語引きの事典(小項目式事典)のボリュームは増す一方だった。近代になると、事典に入れる内容は一層増大したため、事典は字引(dictionary)と百科事典(encyclopedia)に分化する。百科事典の多くは小項目式か中項目式の事典で、項目をアルファベット順や五十音順など単語で引く仕組みになっていた。これらの事典は、わからない事柄を単語で引くことができる点で便利である。しかし、複雑化する現代の生活にあって、知ろうとする事柄を事典で引くことができたとしても、膨大な知識の寄せ集めに終始しかねない。そこで、城戸は現代の生活に対応する「新しい内容と構成をもつ事典」が必要と考えた。「新しい内容と構成をもつ事典」の目的と概略について、城戸は以下のように述べている。<br> われわれは、生活が複雑になればなるほど、その複雑な知識を、一貫した思想で系統づけ、しっかりした理論で分類し、新しい知識の価値を自分の力で判断する力をもたなければならない。そのためには、知識の整理統合および判断の基礎を、つねに'生活'におかなければ、自分のものとはならない。こう考えてくると、これまでにあらわれた事典のほかに、まったく新しい内容と構成をもつ事典の出現が、どうしても必要になってくる。 城戸は、知識の整理統合および判断の基礎を「生活」において知識の系統化・価値化をはかるためには、知識をばらばらに並べる小項目式ではなく、ひとつの問題を項目として設定した大項目式が妥当と考えた。大項目式を採用した事典(第1巻~第16巻)では、生活と切り離すことのできない問題を取りあげ、各巻の題目とする。編集にあたっては、知識や情報の体系性、事柄の関連性などが総合的に把握できるように内容と構成を組織化する。一方、最終巻(第17巻『百科の使い方:総索引』)は特定の事柄について調べることができる小項目式を採用する。「どの巻のどのページには、どんな事項がのっているか、一目でみつけられる」ように工夫されている。子どもの生活経験に基づき、子どもの関心や疑問を出発点として、単語・単元・問題を関連づける索引により分析と総合が繰り返され、調査の方法を身につけることが目指された。