著者
青田 泰明
出版者
日本教育社会学会
雑誌
日本教育社会学会大会発表要旨集録
巻号頁・発行日
no.59, pp.279-280, 2007-09-22

不登校の克服過程において、「家族」は必ずしも一枚岩であるわけではない。そこでは、親子関係、夫婦関係に揺らぎが生じ、そうした諸関係が不登校をめぐる解決すべき課題として新たに立ち現れてくる。不登校に直面した「家族」が、どのように不登校を理解し、どのように家族関係を再構築し、いかにして不登校を克服したのかを把握することは、不登校をめぐる家族の葛藤を理解するというだけでなく、「家族」を対象とした不登校支援の観点からも、重要な意義を待つものと思われる。よって本稿では、不登校を経験した家族成員(子ども・母親・父親)それぞれの不登校理解や、成員間の関係性について分析を試みていく。具体的には、不登校が親子関係や夫婦関係に及ぼす影響、また各家族成員のライフヒストリーにおける不登校の位置付け、などについて考察していく。その際、分析対象となるのは、2004年7月から不登校経験児とその親に対して継続的に実施している、不登校経験と生育環境に関する聞き取り調査に基づく「語り」である。「語り」からは、子ども・母親・父親の志向や期待により、不登校に対する直接的ケア負担が母親一人に集中する一方で、父親に対しては間接的ケアラーとしての役割が求められていたことが見て取れた。また、そのような役割分担の結果、不登校経験に対する解釈について家族内には差異が生じていた。不登校を肯定的に再解釈する子どもと母親に対し、父親は否定的解釈から逃れることができずにいた。揺らぎが生じた「家族」の安定化を図るために、「学校に行かない」ことを肯定的に捉え直す家族戦略に、家族内で唯一乗り遅れ、葛藤を抱く父親の姿がそこにはあった。
著者
青田 泰明
出版者
日本教育社会学会
雑誌
日本教育社会学会大会発表要旨集録
巻号頁・発行日
no.56, pp.156-157, 2004-09-11

本稿では、近年の不登校研究の潮流において周縁へと追いやられた「怠学」「無気力」という不登校形態に再び目を向け、それを文化的再生産の視点から考察していく。「学校要因」への偏重傾向が強まる中、今一度「家庭要因」の再検討を試みることが、本研究における主たる目的の一つである。その際、具体的な分析対象となるのは、2004年度7月から継続的に実施している、不登校経験と生育環境に関する聞き取り調査に基づく12名の「語り」である。12名はいわゆる「中間層」の家庭に育った若者であるが、そこでは、定位家族の文化資本、特に母方文化(母親ハビトゥス)が、父親の「子育てに対する非協力的態度」という現実を背景に持ちつつ、子どもの不登校の選択に大きく関わっており、また正規学歴ルートヘの復帰の有無にも強い影響を及ぼしていた。膨張した中間階層内に隠蔽された文化資本の変異(またそれによる格差)と不登校現象との強い関連が、そこには存在していると筆者は考えている。