著者
面矢 慎介
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.25-32, 2003-09-30

イギリスの電気ケトルを事例として、近代家庭機器の成立・発展過程およびそのデザイン変遷をめぐる諸要因について考察した。電気ケトルのイギリスでの発展・昔及は、この国の紅茶愛飲の習慣と密接な関係にあった。電気ケトルをはじめとする小型電気調理器具は、ダイニングテーブル上で簡単な食事の準備ができるという食事習慣の簡略化に沿うものであったが、なかでも電気ケトルは、非儀式的でカジュアルな飲茶習慣の成立を促進した。普及が本格化する1950年代には、沸騰した時点で発熱を止める自動機構が完成して利便性が高まり、それまで長らく普通型ケトルでの流行に追随するだけだった外形デザインでも、普通型ケトルとの差別化がはかられた。1980年代の耐熱プラスチックボディのジャグ型の出現は、素材転換による製造の効率化と紅茶をあまり飲まない大陸各国への市場拡大が意図されていたが、この形状が受け入れられた文化的背景として、コーヒーなどの飲用が増え紅茶愛飲の習慣がもはや絶対的でなくなったことが指摘できる。
著者
面矢 慎介
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.25-32, 2003-09-30 (Released:2017-07-19)
参考文献数
27

イギリスの電気ケトルを事例として、近代家庭機器の成立・発展過程およびそのデザイン変遷をめぐる諸要因について考察した。電気ケトルのイギリスでの発展・昔及は、この国の紅茶愛飲の習慣と密接な関係にあった。電気ケトルをはじめとする小型電気調理器具は、ダイニングテーブル上で簡単な食事の準備ができるという食事習慣の簡略化に沿うものであったが、なかでも電気ケトルは、非儀式的でカジュアルな飲茶習慣の成立を促進した。普及が本格化する1950年代には、沸騰した時点で発熱を止める自動機構が完成して利便性が高まり、それまで長らく普通型ケトルでの流行に追随するだけだった外形デザインでも、普通型ケトルとの差別化がはかられた。1980年代の耐熱プラスチックボディのジャグ型の出現は、素材転換による製造の効率化と紅茶をあまり飲まない大陸各国への市場拡大が意図されていたが、この形状が受け入れられた文化的背景として、コーヒーなどの飲用が増え紅茶愛飲の習慣がもはや絶対的でなくなったことが指摘できる。
著者
面矢 慎介
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.17-24, 2003-09-30 (Released:2017-07-19)
参考文献数
35

19世紀末から20世紀末までの英国の庶民家庭における据え置き型風呂を対象として、その発展・普及の過程、デザイン変遷の経緯を探り、その背景となった諸要因について考察した。庶民家庭に風呂を設けることは、国民の健康向上をめざす政府主導の住宅改善の動きに端を発し、第1次大戦後の公共住宅の多くには給湯式風呂が設置された。20世紀初頭から1960年代までの間、給湯設備として、その場で沸かす直火型、キッチンレンジ接続のバックボイラー、衣類用煮洗い釜、瞬間ガス湯沸かし機などが併存しつつ推移した。風呂の急速な普及の要因としては、板金・陶製から鋳物への浴槽の材質転換によるコストダウン効果があげられるが、より大きな社会背景として衛生観念の変化があった。労働者住宅にも独立した浴室が設置されていく1930年代になると中産階級住宅において「モダンスタイル」の浴室が現れ新たな差別化がはかられた。このような風呂の社会的・文化的位置づけの変化が各時代の風呂のデザインに反映されてきた。
著者
面矢 慎介
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.11-20, 2005-05-31

19世紀から20世紀中期にかけてのイギリスの鍋を事例として、近代家庭機器の成立・発展過程およびそのデザイン変遷をめぐる諸要因について考察した。19世紀末から1930年代にかけて、大容量の鍋が徐々に減少する一方、鍋タイプの細分化が進んだ。1910年代までの英国において、鍋の形態は非常に保守的・固定的であった。特に胴の中央部が膨らんだ「ベリード・タイプ」の鍋は、長年にわたって鍋形態の定型となり、家庭の台所のシンボルとなっていた。19世紀から1910年代までのベリード・タイプに代表される鋳物鍋から、1920年代以降のアルミ鍋への転換(主たる鍋材質および鍋形態の典型の交代)は、各素材に特化した鍋メー力ーの盛衰、ひいては金属加工工業の構造的変革と深く関わっていた。この時代における鍋のデザイン変化(典型の交代)を促したのは、調理器の熱源の変化に加えて、日常の料理法の変化、調理器の外観の変化、家庭生活における台所の位置づけと台所空間のデザイン変化であり、これらが、互いに関連しつつ鍋のデザインに影響していた。
著者
面矢 慎介
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.11-20, 2005
参考文献数
26

19世紀から20世紀中期にかけてのイギリスの鍋を事例として、近代家庭機器の成立・発展過程およびそのデザイン変遷をめぐる諸要因について考察した。19世紀末から1930年代にかけて、大容量の鍋が徐々に減少する一方、鍋タイプの細分化が進んだ。1910年代までの英国において、鍋の形態は非常に保守的・固定的であった。特に胴の中央部が膨らんだ「ベリード・タイプ」の鍋は、長年にわたって鍋形態の定型となり、家庭の台所のシンボルとなっていた。19世紀から1910年代までのベリード・タイプに代表される鋳物鍋から、1920年代以降のアルミ鍋への転換(主たる鍋材質および鍋形態の典型の交代)は、各素材に特化した鍋メー力ーの盛衰、ひいては金属加工工業の構造的変革と深く関わっていた。この時代における鍋のデザイン変化(典型の交代)を促したのは、調理器の熱源の変化に加えて、日常の料理法の変化、調理器の外観の変化、家庭生活における台所の位置づけと台所空間のデザイン変化であり、これらが、互いに関連しつつ鍋のデザインに影響していた。