著者
曹 鵬宇 安次富 郁哉 韓 麗 岩政 琢 舟谷 文男
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, 2002-03-01

緒言:中国の労働者医療保障制度は地域差があり、また改革の途中にある。制度が未整備な地域も多い。これらの問題は医療保障制度を確立する上で早急に解決すべき重要課題である。我々は日本と中国の医療保障制度を比較し、同制度の改善施策の一資料として提示することを試みた。日中医療保障制度の問題点比較:中国の医療保障制度はすべての城鎮部労働者が保険加入者となり、その保険金は労使相方で定額を負担する仕組みとなっている。保険財源の基本医療保険基金は統一基金と被保険者ごとの個人口座で構成される。以下に日中医療保障制度の問題点を示した。1.中国医療保障制度の問題点:日本に比較して、(1)保険対象者が限定されている(2)保険種類が単一(3)給付内容が限定(4)CTなど特別な医療給付の場合は、給付申請を必要とする。申請には時間を要し、手続が複雑である。2,日本医療保障制度の問題点:中国に比較して、(1)保険から支払われる医療費に上限がないため、薬や検査をすればするほど利益が得られる(2)同一疾患に対する治療指針は、医師、医療機関によって異なり、診療費の不正請求などの問題が起こり得る(3)医療機関の提供サービスの質が異なるにもかかわらず全国一律の診療報酬が定められている。以上から、中国では早急に以下の問題点を解決すべき必要がある。1、「社会的な医療救済制度」の構築:財政負担能力の高い地域では、高度医療を必要とする疾病への救済基金を打ち立てること。2、「民間医療保険」併用の制度化:民間医原保険は公的医療保険「三つの制約」を補完するために、a.医療費の上限設定の緩和、b.医療内容の拡大、c.保険給付対象の拡大の3点を基本とする制度の導入が必要である。結語:中国では、新たな制度改革を開始したばかりであり、又、医療環境の未整備、地域間や都市と農村の大きな格差などの問題を抱えている。医療保障制度の完全な整備は困難ではあるが、直面する現実の問題を随時解決し、医療機関整備、薬品流通体制などを含めた総合的な改革を推進することによって、より公平で公正な医療保障制度を確立することが可能になるものと考えられる。