著者
音羽 健司 森田 正哉
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.18-28, 2015-11-30 (Released:2015-12-10)
参考文献数
39
被引用文献数
1

社交不安症(SAD)は社交場面や対人面において恐れや不安を抱き,それを回避することで日常生活に支障を生じる疾患である。DSM-III以降,欧米では多くの疫学研究が行われるようになり,有病率の高さが注目された。DSM-IVでは社会恐怖の診断名に「社会不安障害」が併記され,恐怖症から不安障害へと名称・概念の変遷に至った。また,他の精神疾患の併存率の高さも指摘されており,特にうつ病や自殺のリスクに注意が必要である。DSM-5で初めて,SADはこれまでの自己主体性の不安だけでなく他者主体性の症状が盛り込まれ,わが国固有の対人恐怖症とほぼ同一の疾患概念として捉えられるようになった。本邦ではいまだ「見逃されている」精神疾患であり,診断と治療が依然十分には行き届いているとはいえない。わが国特有の文化的背景も考慮に入れつつ,患者に最適な治療が届くようにSADを見落とさない努力を医療者側が行う必要がある。
著者
音羽 健司
出版者
日本不安障害学会
雑誌
不安障害研究 (ISSN:18835619)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.73-84, 2014-03-31 (Released:2014-05-02)
参考文献数
55

本稿では,主な不安障害の遺伝研究の現状について概観した。家族研究や双生児研究から,不安障害には遺伝要因が推定されており,その相対危険度は4~6倍,遺伝率は30~50%と報告されている。双生児研究からは,各不安障害にはそれぞれ独自の遺伝要因が影響しているだけでなく,ほかの不安障害や不安関連特性(うつ病や不安パーソナリティ)と共有する遺伝要因が関与することが示唆された。不安障害の連鎖解析や関連解析では確立した候補遺伝部位はいまだに見いだされていないものの,近年ではサンプル規模を増やした全ゲノム関連解析によって有意な部位が報告されてきている。さらに,マウスなどの動物モデルを用いた橋渡し研究がヒトの不安障害の遺伝子探索に応用されている。今後は,環境要因を考慮に入れた遺伝・環境交互作用や遺伝子のメチル化などの解析も重要性を増すであろう。