- 著者
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綿野 泰行
朝川 毅守
須山 佳久
- 出版者
- 千葉大学
- 雑誌
- 萌芽研究
- 巻号頁・発行日
- 2003
ハイマツとキタゴヨウの交雑帯では、父性遺伝の葉緑体DNAはキタゴヨウからハイマツへ、そして母性遺伝のミトコンドリアDNAはハイマツからキタゴヨウへと、方向性を持った遺伝子浸透が起こっている。本研究では、両種が混生し、今まさに交雑が進行中と推定されるアポイ岳をフィールドとした。自然下での交雑の実体を、様々な方法で解析し、両者の間にどのような生殖的隔離が存在するのかを明らかにすることで、遺伝子浸透のパターンが形成されるメカニズムを解き明かす事を目的として解析を行った。1)アポイ岳交雑帯の遺伝的構造:アポイ岳では、ハイマツ型mtDNAのキタゴヨウへの遺伝子浸透が顕著であり、全ての個体がハイマツ型mtDNAを持っていた。核遺伝子マーカーによって同定された雑種はほとんどがキタゴヨウ型cpDNAを持ち、標高では、7-8合目に集中していた。2)花粉プールの時期・標高における変化:同標高においては、ハイマツの開花はキタゴヨウに1〜2週間先行するが、異標高では2種の開花時期は重なる。この開花フェノロジーの差異が花粉プールの組成に与える影響を探るため、花粉1粒ごとのPCR解析による葉緑体DNA(cpDNA)のタイピングを行った。その結果、花粉をトラップした2, 5, 6, 7合目全てにおいて、ハイマツ型cpDNAとキタゴヨウ型cpDNAが混在する時期が存在することが明らかとなった。3)種子形成における花粉選択:母樹が純粋なハイマツやキタゴヨウの場合、同種の花粉のみから種子が形成されていることが判明した。花粉プールにおける混在の結果から、選択的受粉機構が存在するものと考えられる。一方、雑種の種子からは、ハイマツ型とキタゴヨウ型の両方のcpDNAが検出される。おそらく、雑種は花粉選択性を失い、雑種を経由して、遺伝子浸透が進行するものと考えられる。