著者
飯利 太朗 槙田 紀子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.134, no.5, pp.244-247, 2009 (Released:2009-11-13)
参考文献数
29

古典的なGタンパク質共役受容体(GPCR)のtwo-stateモデルでは,GPCRは活性型と不活性型との間で平衡状態にあり,各GPCR作動薬はその平衡状態をシフトさせる方向性からアゴニスト,インバースアゴニスト,アンタゴニストと分類されてきた.最近,GPCRは活性型,不活性型いずれにおいても無数の高次構造を取り得ると考えるmulti-stateモデルを支持するデータが集積している.このモデルでは,各作動薬はそれぞれユニークなGPCRの高次構造を認識して結合しこれを安定化させると考えられる.GPCRの個々の高次構造において潜在的にそれぞれ異なる機能を発揮すると考えられる.この考えに基づけば,あるユニークなアゴニストあるいは通常のアゴニストとアロステリックに作用する調節因子の作用のもとに,本来複数のGタンパク質を活性化するGPCRを介して,あるシグナル系のみを特異的に活性化(機能選択的活性化)することも夢ではない.今回,我々が疾患で発見解析したCa感知受容体に作用する自己抗体は,こうした機能選択的活性化を可能にするアロステリックに作用する調節因子であった.このきわめてまれな疾患の解析結果は,同様な機能選択的な活性化が生理的にも作動していることを暗示しているのかもしれない.さらに,GPCRの機能選択的な調節をターゲットとする薬剤の開発は,今後のGPCR作動薬分野の創薬における新しく重要な方向性を示していると考えられる.