著者
飯塚 俊太郎 堤 麻衣
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.104-115, 2015-12-25 (Released:2019-06-08)
参考文献数
74

本稿の目的は,「構想日本」というシンクタンクが,自ら考案した「事業仕分け」の国政における採用を実現した過程を解明することを通じ,シンクタンクの役割や影響を論じることにある。2009年の民主党を中心とする連立政権への政権交代を象徴する出来事となった事業仕分けは,構想日本が発案し,その全面的関与のもとに2002年から全国の地方自治体で実施を積み重ねてきた手法である。それは,政権交代後間もなく,内閣府に設置された行政刷新会議を司令塔とする官邸主導のプロジェクトとして,国政にて実施される運びとなった。本稿は,シンクタンクの役割と影響に着目して,事業仕分けが国政にて採用された過程を分析する。シンクタンクが実際の政策過程に及ぼした役割や影響の具体的考察は,それ自体稀有と言える。その上で,以下のような示唆を得る。従来のシンクタンク論の通説的見解では,自民党長期政権とそれに伴う行政・官僚主導の政策形成の在り方が日本のシンクタンクの脆弱性や未熟性の要因として指摘されてきた。それに対し,本稿の分析は,政権交代という出来事を機に,一シンクタンクの構想であった事業仕分けが国政の中枢にて採用された事例を提示する。また,そうした事象が起きた背景として,政権交代が契機であったことはもとより,1990年代以降の政治改革・行政改革を通じた制度的な変化により内閣機能の強化や官邸主導への流れが醸成されてきたという背景を仮説的に示す。今後の日本のシンクタンク研究では,このような政治環境の変動を,シンクタンクを取り巻く環境の変容として考慮する必要があることが示唆される。