著者
飯塚 寛
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.66-77, 1994-01-01

日本とドイツについて、社会における森林・林業の位置づけを三つの側面から検討した。まず森林法における法の目的と森林の定義等の対比では、両国の間に本質的な相違があるとは考えられない。次に、林業関係の法律に関して最高裁判所あるいは憲法裁判所が下した違憲判決への対応を見た。その影響の及ぶ範囲の特定は比較的容易であり、日本が法律の改正、ドイツが新しい法律の制定によって違憲状態の解消にいたるまでの期間は、共通的に短かった。最後に、台風による全国規模の風倒木被害の復旧状況を見た。この措置がドイツで2年後にほぼ完了しているのとは対照的に、日本では約2年後の現在なお終了時期の見通しは難しい。報道は、2次災害の発生には警鐘を鳴らしても、その目はもう1歩その奥の森林・林業までは届かない。復旧措置の否応ない持続時間は、それぞれの国における社会が森林・林業との間にどの程度の間隔を設けているかを象徴的に反映するものと考える。ドイツの州森林法の中の、目的が保健休養のためである限り、森林への立入りが誰にも許されるとする規定の存在は、社会と森林・林業を相互に遠ざける方向には作用しないことも確かであろう。