著者
飯野 希 Nozomu Iino
出版者
電気通信大学
巻号頁・発行日
2013-03-24

ヒトの速度知覚は,刺激パターンの様々な要因(1)輝度コントラスト,(2)空間周波数,(3)形状などに影響を受ける.すなわち,パターンの速度が物理的に等しくても,知覚量としては異なることがある.この差は錯視量と呼ばれる.これらの視覚特性や要因を再現・説明するために,さまざまな視覚細胞特性や計算論的仮定などを導入した数理モデルが提案されてきた.本研究では,ヒトの視覚細胞特性や計算論的仮定を考慮・導入していない工学的画像処理アルゴリズムでも基本的な知覚特性が再現・説明できることを示す.具体的には時空間微分算法と呼ばれる手法の入出力特性を測定・分析・数理的考察を行い,上記(1)(2)(3)の視覚特性が再現・説明できることを示す.このような工学的観点から考察を行うことで,視覚特性の要因について新たな解釈を与えることを目的とする.具体的な手法としては,MATLABによるシミュレーションにより,上記の視覚特性の再現・説明を試みた.シミュレーションを行った結果,工学的画像処理アルゴリズムでも上記(1)(2)(3)の特性が再現できることを示した.さらに数理的な考察を行い,細胞ノイズ・生体ノイズなどのノイズが速度推定に影響を与え,結果として視覚特性が現れることを示した.また,刺激の形状や,物理的運動方向を定めることで,どの程度の錯視量が生じるか数式上で求められることを示した.これは,刺激の形状によって,錯視量が最大となる運動方向や,錯視が生じない運動方向を計算論的に定められることを意味している.この研究により,工学的観点から視覚特性が再現できることがわかり,視覚特性の要因についても新たな解釈,工学的考察の可能性を与えた.