著者
馬場 久美子 松田 敬一
出版者
日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会・九州沖縄産業動物臨床研究会
雑誌
産業動物臨床医学雑誌 (ISSN:1884684X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.17-21, 2019-04-30 (Released:2019-06-18)
参考文献数
11

本研究では黒毛和種牛における,分娩前の母牛の栄養状態と在胎日数の関連を調査するとともに,娩出された子牛の大きさと在胎日数の関係を調査した.2010 ~ 2011 年に分娩した母牛計55頭を供試牛とした.黒毛和種牛の妊娠期間を285 日とし,分娩予定日までに分娩した牛14 頭を対照群,予定日以降に分娩した牛41 頭を遅延群とした.分娩日および分娩予定日から分娩予定2 週間前の胸囲を差し引いて算出した値を胸囲変動としたところ,対照群の胸囲変動が0.36 ± 3.79 cm であったのに対し,遅延群は分娩予定日で−0.71 ± 3.29 cm,分娩日で−2.27 ± 4.00 cm であり,分娩日において遅延群で有意な減少を示した.子牛の性別,分娩季節,母牛の年齢等に差が認められなかったこと,分娩日までの胸囲変動は対照群と比較して有意に減少していたことから,分娩前の母牛の低栄養が分娩遅延に影響があることが示唆された.加えて分娩前の母牛の給与飼料内容が異なる2 農場を比較した.2 農場のうち,給餌飼料からの養分充足率が低い農場では,分娩日の胸囲変動が給餌飼料からの養分充足率が高い農場に対し有意な減少を示した.また,給餌飼料からの養分充足率が低い農場の在胎日数は給餌飼料栄養価の高い農場に対し,有意に長かった.以上から分娩前の母牛の低栄養が分娩遅延を引き起こす要因の1 つと考えられた.調査対象牛の出生子牛の頭囲および生時体重と在胎日数の関係を調査したところ,頭囲は在胎日数に相関して増加した一方,生時体重は在胎日数との相関が認められなかった.以上より妊娠末期の母牛を低栄養状態で飼養することは在胎日数の延長を招き,頭囲が大きい子牛を分娩することが示唆されたことから,分娩前の母牛に適正な飼養管理を行うことは,分娩遅延を予防し,その結果出生子牛の頭囲が大きくなることを防ぐ一助となると考えられた.