著者
谷津 實
出版者
日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会・九州沖縄産業動物臨床研究会
雑誌
産業動物臨床医学雑誌 (ISSN:1884684X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.105-115, 2019-11-05 (Released:2019-12-04)
参考文献数
34
被引用文献数
1

宮城蔵王キツネ村に展示飼育されているアカキツネを用いて,受胎率の向上と遺伝的多様性の維持を目的に検討を行った.まず,使用する雌雄アカキツネが健康であることを確認するために,バイタルサイン,血液検査,凝固検査および血清生化学検査を行い基準値(範囲)を求めた.犬の既知参考値と比較して,直腸温,赤血球数,好酸球数,血清グルコース,アルブミンおよび尿素窒素濃度は高値,一方平均赤血球容積(MCV)および平均赤血球ヘモグロビン量(MCH),血清ブチリルコリンエステラーゼ活性は低値を示した.得られた基準値には雌雄差はなく,健康状態の把握,疾患の類症鑑別や治療あるいは予防に利用できると考えられた.次に,雌キツネの発情時期と交配適期について,年間を通しての膣所見および子宮頸管粘液電気抵抗(VER)値から解析し,さらにVER のピーク値と受胎成績の関連,およびVER 高値の個体における交尾時間と受胎率の関係について調べた.雌キツネの外陰部の発情徴候は毎年2 ~ 3 月のみ観察され,ER 値のピーク値は外陰部の腫脹1 ~ 2 日後に観察された.非発情時の基礎VER 値は140 units 前後であることから,発情期のVER のピーク高値(280 units 以上)は受胎の必要条件と考えられた.交尾時間は40 分を超えると高い受胎率が得られた.このことから,発情期にVER が高値を示し,交尾時間が長くなると受胎率が飛躍的に高まることが明らかとなった.続いて,優秀な種雄キツネの精液を活用するために,人工授精法の確立を試みた.直腸電気刺激射精法を用いて雄キツネからの精液採取条件を検討し,牛用精液希釈液が精液の希釈増量・凍結保存に応用できるか調べた.精液採取には周波数60 Hz で電圧3 ~ 4 V(2 ~ 4 サイクル)で良好な精液量,精子数および精子生存指数が得られた.牛用精液希釈液を用いた凍結・融解精液は25 カ月間不変で妊娠率は81.3%であった.この結果から,精液採取には限定された電気刺激条件が存在し,牛用精液希釈液はキツネの人工授精に応用できることが判明した.最後に,2012 ~ 2017 年に得られたキツネの交配・人工授精データを取り纏め, 受胎プロフィルを回顧的に解析した.自然交配では同一雄キツネと交配を繰り返すと妊娠率が上昇した.人工授精の妊娠率 (82.4%)は自然交配 (67.7%)に比べ高い傾向にあった.初産と経産の間に妊娠率,妊娠期間及び新生子数に差はみられなかった.以上,得られた成績は安定した繁殖成績の維持と向上に寄与するとともに,種の多様性維持にも役立つと考えられた.
著者
阿南 智顕 菊池 薫 一條 俊浩 岡田 啓司 佐藤 繁
出版者
日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会・九州沖縄産業動物臨床研究会
雑誌
産業動物臨床医学雑誌 (ISSN:1884684X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.154-160, 2016-03-15 (Released:2016-10-02)
参考文献数
15

子牛に対するグリセロール投与の効果を明らかにする目的で,絶食した子牛と下痢症のために衰弱した子牛にグリセロールを1回経口投与し,エネルギー補給効果と衰弱症状の改善効果を検討した.その結果,投与群では投与量(50 ~ 200mℓ)および投与方法(カテーテル,哺乳ビン)にかかわらず,投与後に血糖(Glu)が上昇して遊離脂肪酸(FFA)が低下する傾向が認められた.Gluはカテーテルおよび哺乳ビン投与牛ともに,200mℓ投与牛で投与後2時間にピークを示して12時間まで持続し,Glu上昇とFFA低下の程度や持続時間は,投与量が増えるに伴って大きくかつ長い傾向がみられた.このことから,2 ~ 4カ月齢子牛に50 ~ 200mℓのグリセロールを投与すると,量依存性にGluが高値を示し,エネルギー補給効果のあることが明らかにされた.一方,野外の下痢症子牛を対象としてグリセロール200mℓ のカテーテルでの経口投与による衰弱症状と糞便性状の改善効果を検討した結果,活力の低下や消失,起立困難や歩様蹌踉などの衰弱症状は,投与翌日に11頭中10頭で活力が向上し,3頭で起立困難と歩様蹌踉の改善傾向がみられた.糞便性状は投与翌日に11頭中3頭で色調,8頭で性状,また,3頭で臭気に改善傾向がみられた.このことから,下痢症により衰弱症状を呈した子牛に対してグリセロール200mℓ をカテーテルで経口投与することは,下痢症からの回復を早める手段として有効であることが示唆された.
著者
前谷 文美 寺村 誠 山崎 昌仁 大谷 昌之
出版者
日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会
雑誌
産業動物臨床医学雑誌 (ISSN:1884684X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.191-196, 2015-01-15 (Released:2015-12-02)
参考文献数
28

二重エネルギーエックス線吸収測定法(Dual-energy X ray absorptiometry;DXA)にてホルスタイン種雌牛(生後1~ 425日)18頭の骨密度を測定した.測定部位は右中足骨とし,機器はDCS-600EXV(日立アロカメディカル,東京)を使用した.血清カルシウム(Ca)濃度,骨形成マーカーである骨型アルカリフォスファターゼ(bone-specific alkaline phosphatase;BAP)値,骨吸収マーカーであるⅠ型コラーゲン架橋N-テロペプチド(type Ⅰcollagen cross-linked N-telopeptide;NTx)値を測定し,骨代謝状況を把握するためにNTxとBAPの比(NTx/BAP)を算出した.日齢と骨密度は強い正の相関関係を示し(r=0.86,p=0.0001),日齢の進行とともに骨密度は増加した.日齢と血清Ca濃度は強い負の相関関係を示し(r=-0.85,p=0.0245),日齢が進むにつれて血清Ca濃度が低下した.NTx/BAP値は血清Ca濃度と負の相関関係を示し(r=-0.61,p=0.0064),日齢とは相関関係がみられなかった(r=0.43,p=0.0743).骨密度とNTx/BAP値は相関関係がみられなかった(r=0.42,p=0.0837).DXA法を用いたホルスタイン種雌牛の骨密度の測定によって,日齢の進行に伴い,骨密度が増加することが判明した.今後,1歳以上のホルスタイン種雌牛を用いた同一個体に対する経時的な骨密度の測定により,成長に伴う骨密度の変化率と分娩前後の骨密度の変化率がデーター化されれば,乳熱などの周産期疾病予防や治療方針の判断につながると考えられる.
著者
渡邉 貴之 小西 一之 野口 浩正 大福 浩輝 岡田 啓司
出版者
日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会・九州沖縄産業動物臨床研究会
雑誌
産業動物臨床医学雑誌 (ISSN:1884684X)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.7-12, 2012-06-30 (Released:2013-05-17)
参考文献数
16
被引用文献数
4 1

黒毛和種経産牛の栄養状態と胚移植受胎率の関連性について調査した.試験はⅠ期とⅡ期に分けて実施した.泌乳していない黒毛和種経産牛を,Ⅰ期は61頭,Ⅱ期は29頭供試した.移植胚は新鮮1胚または凍結1胚とした.粗飼料は全て収穫時に飼料分析を行った自家産数種の乾草または低水分サイレージのうち2種類をTMRミキサーで混合して給与した.飼料設計は,Ⅰ期は可消化養分総量(TDN)130%,乾物摂取量(DMI)100%以上とし,可消化粗蛋白質(DCP)は考慮しなかった.Ⅱ期はⅠ期の代謝プロファイルテスト(MPT)結果を考慮して,これら粗飼料に圧片トウモロコシを加えTDN 120%,DCP 200%未満,DMI 100%以上とした.両期とも胚移植開始2カ月前から体重が維持できるよう混合粗飼料の給与量を調整した.Ⅰ期は20頭,Ⅱ期は10頭を無作為に抽出し,MPTを胚移植開始1カ月後に実施した. TDNの充足率はⅠ期がⅡ期よりも有意に高かった(137% 対113% , p<0.01)が,MPTを取り入れ高タンパク状態を改善したⅡ期のDCP充足率はⅠ期に比べ有意に減少した(310%対147% , p<0.01).DMI充足率は114%と107%で差は認められなかった.給与した飼料の平均デンプン(NFC)含量はⅠ期が7.9%,Ⅱ期が17.6%とⅡ期が有意に高かった.Ⅱ期はⅠ期に比べ血中遊離脂肪酸,β-ヒドロキシ酪酸が有意に低かった(p<0.05,p<0.01)ことから,低NFCに起因するル-メンの発酵不足によるエネルギー不足が改善されたことが考えられた.また,血液尿素窒素もⅡ期がⅠ期に比べ有意に低かった(p<0.01)ことから,Ⅱ期では,Ⅰ期においてみられたルーメン発酵不足と高タンパク飼料によるル-メン内の利用しきれないアンモニアの発生が抑えられたと考えられた.胚移植受胎率はⅠ期37.7%(23/61),Ⅱ期は65.5%(19/29)とⅡ期が有意に高く改善された(p<0.05).以上のことから,黒毛和種受胚牛の受胎率はDCPの過剰摂取やDCPとNFCのアンバランスな場合に低下すること,MPTを基にした飼料設計で改善することが認められた.また,イネ科牧草の飽食給与は,著しい蛋白過剰をもたらす可能性があることが明らかになった.
著者
山﨑 朗子
出版者
日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会・九州沖縄産業動物臨床研究会
雑誌
産業動物臨床医学雑誌 (ISSN:1884684X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.114-121, 2020-11-10 (Released:2021-01-26)
参考文献数
19

昨今,ジビエ産業が賑わいを見せているが,社会一般的には突如巷に現れた野生動物食ブーム,という感が強く,その背景や生産過程についてはあまりよく知られていない.元来食肉は家畜と家禽に由来するもので,相応の法的規制の下に生産されるが,現在の日本の食肉生産方法に野生動物を組み込むことは衛生面から不安が多いため,家畜とは異なる解体施設での食肉生産を義務付けられている.しかし,大自然の中で生育した野生動物が保有する微生物によるヒトへの危害性については未知の部分が多いにもかかわらず,家畜でないため,家畜に課せられる法律が適用できないことから生産された食肉の安全性に不安を持つ声も少なくない.既に産業としてのジビエ生産が確立されている米国,欧州ではそれぞれに適した衛生管理政策によって衛生管理を実現しているが,その方法は両者とも大きく異なっている.これらの先行している衛生管理政策を参照し,我が国に適したジビエの衛生管理法の構築が望まれる.
著者
新盛 英子 滄木 孝弘 石井 三都夫
出版者
日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会
雑誌
産業動物臨床医学雑誌 (ISSN:1884684X)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.1-7, 2013-06-30 (Released:2013-07-10)
参考文献数
15
被引用文献数
1

1日齢における血中免疫グロブリンG(IgG)濃度が基準値未満の場合に受動免疫移行不全(FPT)と診断されるが,子牛が肥育牧場や育成牧場に導入される1週齢前後のFPT基準値は報告されていない. 本研究は, 血清IgGおよび総タンパク質(TP)濃度の経時的変化を調べ, 7日齢の検査値を用いたFPT診断精度について検証した. ホルスタイン種(HS)43頭, 黒毛和種(JB)34頭を用いた. 1日齢と7日齢に採血を行い, 血清IgG(mg/mℓ)およびTP濃度(g/dℓ)を測定した. 1日齢と7日齢において, IgGとTPの間に強い正の相関関係が認められた. 1日齢のIgGとTPの散布図において, 近似曲線の一次方程式にFPT基準値(HS-IgG: 10.0, JB-IgG: 20.0)を代入して求めたTP濃度(HS-TP: 4.6, JB-TP: 5.3)を1日齢のFPT基準値とした. HS-IgG, HS-TPおよびJB-IgGは, 1日齢〜7日齢にかけて有意に減少した. 1日齢〜7日齢の平均変化率は, HS-IgG: 71.7%, HS-TP: 92.2%, JB-IgG: 73.8%, JB-TP: 95.4%であった. 1日齢のFPT基準値に平均変化率を乗じて7日齢のFPT基準値とした(HS-IgG: 7.2, HS-TP: 4.2, JB-IgG: 14.8, JB-TP: 5.1). 7日齢の血液検査において, FPT基準値未満であった場合を検査陽性とし, FPTの診断精度について検証した. HS-IgGの陽性的中率(PPV)は78.6%, 陰性的中率(NPV)は93.3%, HS-TPのPPVは76.5%, NPVは100.0%であった. JB-IgGのPPVは100.0%, NPVは80.0%, JB-TPのPPVは91.7%, NPVは86.4%であった. 以上より, 7日齢の血清IgGおよびTP濃度の測定はある程度の精度でFPTを診断できると考えられた.
著者
前谷 文美 寺村 誠 山崎 昌仁 大谷 昌之
出版者
日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会
雑誌
産業動物臨床医学雑誌 (ISSN:1884684X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.11-13, 2015-07-31 (Released:2015-12-02)
参考文献数
17

二重エネルギーエックス線吸収測定法(Dual-energy X ray absorptiometry;DXA)にてホルスタイン種育成雌牛(n=3)の骨密度を測定した.測定部位は尾椎とし,測定機器はDCS-600EXV(日立アロカメディカル,東京)を使用した.測定した全尾椎を1椎毎に箱形関心領域(region of interest;ROI)解析し,骨密度を算出した.その骨密度の最高値を採用し,日齢との関係性を調べた.また各個体で,骨密度を測定した全尾椎の中から無作為に2椎を選び,近位骨と遠位骨で骨密度を比較した.尾椎の骨密度は日齢とともに増加し,また近位骨の骨密度は遠位骨に比べて高かった.本研究ではDXA法を用いたホルスタイン種育成雌牛における尾椎の骨密度の測定によって日齢の進行に伴い,尾椎の骨密度が増加した.また尾椎は,ヒト用のDXA測定機器に対する牛の大きさなど生体面で制限を受ける場合が少なく,育成牛だけに限らず,成乳牛でも測定できる可能性がある.しかし同一個体の尾椎でも遠近差により骨密度の相違がみられる傾向がある点から,DXA法を用いて尾椎の骨密度を測定する時は何番目の尾椎を測定に用いるかを統一しなければならないと考えられた.
著者
北野 菜奈 福本 真一郎 徳山 桂理 池田 恵子 髙橋 俊彦
出版者
日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会・九州沖縄産業動物臨床研究会
雑誌
産業動物臨床医学雑誌 (ISSN:1884684X)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.1-6, 2018-06-30 (Released:2019-05-09)
参考文献数
30

プアオン式イベルメクチン製剤は公共牧場において長期間継続的に使用されており,消化管内線虫駆虫に有効である.本研究では,駆虫を行っていない牧場を用いて駆虫計画を立案し,対象農場に適した駆虫のタイミングを模索するために,イベルメクチン製剤による駆虫を実施した. 駆虫は試験区にのみ5 月,7 月,10 月に行った.消化管内線虫卵数において試験区が対照区と比較し6 月と8 月で有意に低値を示し,試験区において7 月と比較し8 月,10 月が有意に低値であったこと,体重において試験区で7 月と比較し駆虫後の8 月が有意に増体したこと,繁殖成績でも試験区が良好な傾向を示したことは,イベルメクチン製剤による駆虫から得られた効果であると考えられた. イベルメクチン製剤は世界的に牛で薬剤耐性が報告されている.今回のような投与回数を必要最小限に抑えた駆虫プログラムであれば薬剤耐性は容易に起こらないと思われた.
著者
野嵜 敢 伊藤 めぐみ 村越 ふみ 滄木 孝弘 芝野 健一 山田 一孝
出版者
日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会・九州沖縄産業動物臨床研究会
雑誌
産業動物臨床医学雑誌 (ISSN:1884684X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.68-72, 2019-08-31 (Released:2019-09-27)
参考文献数
10

クリプトスポリジウム感染症は生後1 カ月以内の子牛に水様性下痢を引き起こす.クリプトスポリジウム症に有効な治療薬は存在しないが,子牛の下痢症に対する卵黄抗体(IgY)製剤が市販されており,これに抗クリプトスポリジウムIgY が含まれる.そこで本研究では,クリプトスポリジウム症に対する本製剤の効果を血清中および糞便中IgY 動態から検討した.1 酪農場の子牛12 頭を対照群(通常哺乳),初乳投与群(初乳に製剤60g を混合して投与),2 週投与群(初乳に製剤60g,生後2 週間まで生乳に製剤10g/日を混合して投与)の3 群に分けて供試牛とした.試験期間は生後21日目までとし,血液および糞便を採取した.すべての供試牛がCryptosporidium parvum に感染し,水様性下痢を発症した.糞便1g あたりの平均オーシスト数は2 週投与群が,初乳投与群および対照群より有意に少なかった(p<0.05).また,血清および糞便中の総IgY 濃度および抗クリプトスポリジウムIgY 濃度は,初乳投与群および2 週投与群ともに高値を示し,糞便中の総IgY 濃度は生後5 ~14 日目までは2 週投与群で初乳投与群よりも有意に高かった(p<0.05).糞便中の抗クリプトスポリジウムIgY 濃度は生後5 および7 日目に2 週投与群で初乳投与群よりも有意に高かった(p<0.05).本製剤の2 週間の連続的な経口投与はクリプトスポリジウム感染子牛のオーシスト排出量を減少させたことから,抗クリプトスポリジウムIgY はクリプトスポリジウム症予防に有用である可能性が示唆された.
著者
長濱 克徳 大久保 成 一條 俊浩 木村 淳 岡田 啓司 佐藤 繁
出版者
日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会・九州沖縄産業動物臨床研究会
雑誌
産業動物臨床医学雑誌 (ISSN:1884684X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.20-23, 2014-06-30 (Released:2014-07-25)
参考文献数
13
被引用文献数
3 1

牛第一胃液の温度と体温との関係を明らかにする目的で,第一胃液のpHと温度および体温(直腸温度)の日内変動を検討した.ホルスタイン種去勢牛(5カ月齢,4頭)に乾草あるいは濃厚飼料主体飼料(濃厚飼料)を1日2回給与した.第一胃液のpHと温度は無線伝送式pHセンサーを用い,乾草給与時には給与後7日,濃厚飼料給与時には給与後14日に8時から24時まで10分間隔で連続測定した.直腸温度は直腸式デジタルサーモメーターを用いて1時間間隔で測定した.その結果,朝の給餌後に第一胃液のpHは低下,温度は上昇した.体温は,朝の給餌後に上昇したが,乾草給与時には第一胃液温度に比べて約1.0℃高値で推移し,濃厚飼料給与時には第一胃液温度と近似した値で推移した.第一胃液のpHと体温との間では濃厚飼料給与時に有意(p<0.05)な負の相関,また,第一胃液温度と体温との間では,いずれの飼料給与時でも有意(p<0.01)な正の相関が認められた.体温と第一胃液温度は,乾草および濃厚飼料給与時のいずれも朝の給餌時から夕方の給餌後にかけて上昇する傾向がみられたことから,体温の日内変動は第一胃液温度と密接な関連のあることが示唆された.
著者
遠藤 なつ美
出版者
日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会・九州沖縄産業動物臨床研究会
雑誌
産業動物臨床医学雑誌 (ISSN:1884684X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.5, pp.185-189, 2020-12-31 (Released:2022-09-21)
参考文献数
22

被毛中コルチゾール濃度の測定は,慢性ストレスを評価する新たな手法として近年ヒトや動物において注目されている.乳牛などの家畜においては,飼養管理上の慢性ストレスが健康状態や繁殖機能にどのように影響を及ぼすかを調べることが,動物福祉や生産性の向上に重要であると思われる.被毛中コルチゾール濃度の測定は,研究分野のみならず臨床現場においても新たな慢性ストレスの評価手法として使用できることが期待されるが,そのためには被毛中コルチゾール濃度がどの位正確に血中コルチゾール濃度の変動を反映しているか,ストレス以外に被毛中コルチゾール濃度に変動を及ぼす要因があるかといった基礎的な情報が必要不可欠である.本総説では,被毛中コルチゾール濃度の測定原理や具体的な方法について論じるとともに,乳牛における慢性ストレスが健康状態や繁殖機能にどのように関連するかについて最近の知見を元に考察する.
著者
馬場 久美子 松田 敬一
出版者
日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会・九州沖縄産業動物臨床研究会
雑誌
産業動物臨床医学雑誌 (ISSN:1884684X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.17-21, 2019-04-30 (Released:2019-06-18)
参考文献数
11

本研究では黒毛和種牛における,分娩前の母牛の栄養状態と在胎日数の関連を調査するとともに,娩出された子牛の大きさと在胎日数の関係を調査した.2010 ~ 2011 年に分娩した母牛計55頭を供試牛とした.黒毛和種牛の妊娠期間を285 日とし,分娩予定日までに分娩した牛14 頭を対照群,予定日以降に分娩した牛41 頭を遅延群とした.分娩日および分娩予定日から分娩予定2 週間前の胸囲を差し引いて算出した値を胸囲変動としたところ,対照群の胸囲変動が0.36 ± 3.79 cm であったのに対し,遅延群は分娩予定日で−0.71 ± 3.29 cm,分娩日で−2.27 ± 4.00 cm であり,分娩日において遅延群で有意な減少を示した.子牛の性別,分娩季節,母牛の年齢等に差が認められなかったこと,分娩日までの胸囲変動は対照群と比較して有意に減少していたことから,分娩前の母牛の低栄養が分娩遅延に影響があることが示唆された.加えて分娩前の母牛の給与飼料内容が異なる2 農場を比較した.2 農場のうち,給餌飼料からの養分充足率が低い農場では,分娩日の胸囲変動が給餌飼料からの養分充足率が高い農場に対し有意な減少を示した.また,給餌飼料からの養分充足率が低い農場の在胎日数は給餌飼料栄養価の高い農場に対し,有意に長かった.以上から分娩前の母牛の低栄養が分娩遅延を引き起こす要因の1 つと考えられた.調査対象牛の出生子牛の頭囲および生時体重と在胎日数の関係を調査したところ,頭囲は在胎日数に相関して増加した一方,生時体重は在胎日数との相関が認められなかった.以上より妊娠末期の母牛を低栄養状態で飼養することは在胎日数の延長を招き,頭囲が大きい子牛を分娩することが示唆されたことから,分娩前の母牛に適正な飼養管理を行うことは,分娩遅延を予防し,その結果出生子牛の頭囲が大きくなることを防ぐ一助となると考えられた.
著者
新井 鐘蔵
出版者
日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会・九州沖縄産業動物臨床研究会
雑誌
産業動物臨床医学雑誌 (ISSN:1884684X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.1-16, 2019-04-30 (Released:2019-06-18)
参考文献数
33
被引用文献数
1

牛への濃厚飼料多給に起因するエンドトキシンの体内動態と第一胃運動,第四胃運動の変化と肝臓への影響について検討した.まず,ホルスタイン種雌牛を用いて圧ペン大麦を主体とした濃厚飼料多給を行ったところ,亜急性第一胃アシドーシスを生じた.第一胃液Lipopolysaccharide LPS)濃度は,飼料変換1 日後に約4 倍に増加し,14 日後には約23 倍に増加した.濃厚飼料多給前の末梢血液中にはLPS は検出されないが,濃厚飼料多給2 日後にはLPS 濃度が3.8 ± 5.2 pg/mℓと検出され,5 日後には12.7 ± 8.6 pg/mℓに増加した.第一胃運動の収縮力は,濃厚飼料多給2 日後に70 ± 10 % と有意に低下して鼓脹症を発症した.第一胃運動の収縮力は,14 日後には52 ± 2 % まで低下した.第四胃運動の収縮力は,濃厚飼料多給2 日後に60 ± 8 % と有意に低下した.牛に肝臓バイオプシーを実施したところ,濃厚飼料多給14 日後には肝臓に巣状壊死が認められ,28 日後には肝臓に出血巣が認められる牛もいた.次に,第一胃粘膜バリアと血中へのLPS の移行との関係について検討した.5 頭の健康なホルスタイン種去勢牛に濃厚飼料を多給し,軽度の第一胃アシドーシスを作出したところ,3 頭に第一胃不全角化症(パラケラトーシス)が発症し,2 頭の第一胃粘膜は正常であった.第一胃パラケラトーシスを発症した牛では,末梢血液中にLPS が検出され肝臓に巣状壊死が認められた.一方,第一胃粘膜が正常な牛では,末梢血液中にLPS は検出されず肝臓に病変は認められないことから,血中へのLPS の移行には第一胃粘膜の損傷が重要であることが示唆された.さらに,ホルスタイン種去勢牛にLPS を1 回静脈内投与して第一胃運動,第四胃運動および肝臓への影響について検討した.LPS 投与1 時間後に第一胃運動と第四胃運動が停止した.LPS 投与9 時間後に末梢血液中からLPS が検出されなくなり,同時に胃運動の再開も認められた.LPS 投与7 日後の肝臓に巣状壊死が認められた.以上のことから,牛の第一胃アシドーシスに伴い生じる第一胃運動や第四胃運動の抑制,並びに肝障害の要因としてLPS の血中への移行が重要な役割を果たしている可能性が示唆された.
著者
工藤 彩佳 森山 咲 鈴木 真一 猪熊 壽
出版者
日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会
雑誌
産業動物臨床医学雑誌 (ISSN:1884684X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.5, pp.217-221, 2019-12-31 (Released:2020-06-02)
参考文献数
19
被引用文献数
1

ホルスタイン種の牛コレステロール代謝異常症(cholesterol deficiency:CD)は常染色体劣性遺伝性疾患のため,ヘテロ個体に症状は発現しないはずであるが,健常ヘテロ牛の血清コレステロール濃度は野生型に比べて低いと報告されている.本研究ではヘテロ個体の生産性を明らかにすることを目的として,健常ヘテロ個体の血清コレステロール濃度,乳生産および繁殖成績を調査した.臨床的に健常で生産に供される5 農場の乳牛718 頭のうち93 頭(14.9%)がヘテロであった.ヘテロ群の血清コレステロール濃度は野生型に比べて有意に低値であった.また,乳生産を評価できた2 農場のうち1 農場のヘテロ群では305 日補正乳量が野生型群に比較して有意に少なかった.他の1 農場でもヘテロ群の305 日補正乳量は野生型よりも低い傾向にあった.305 日補正した乳脂率,乳蛋白質率および無脂固形分率はヘテロ群で有意に高い,または高い傾向にあった.空胎日数および授精回数には両群で差はみられなかった.