- 著者
-
谷津 實
- 出版者
- 日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会・九州沖縄産業動物臨床研究会
- 雑誌
- 産業動物臨床医学雑誌 (ISSN:1884684X)
- 巻号頁・発行日
- vol.10, no.3, pp.105-115, 2019-11-05 (Released:2019-12-04)
- 参考文献数
- 34
- 被引用文献数
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宮城蔵王キツネ村に展示飼育されているアカキツネを用いて,受胎率の向上と遺伝的多様性の維持を目的に検討を行った.まず,使用する雌雄アカキツネが健康であることを確認するために,バイタルサイン,血液検査,凝固検査および血清生化学検査を行い基準値(範囲)を求めた.犬の既知参考値と比較して,直腸温,赤血球数,好酸球数,血清グルコース,アルブミンおよび尿素窒素濃度は高値,一方平均赤血球容積(MCV)および平均赤血球ヘモグロビン量(MCH),血清ブチリルコリンエステラーゼ活性は低値を示した.得られた基準値には雌雄差はなく,健康状態の把握,疾患の類症鑑別や治療あるいは予防に利用できると考えられた.次に,雌キツネの発情時期と交配適期について,年間を通しての膣所見および子宮頸管粘液電気抵抗(VER)値から解析し,さらにVER のピーク値と受胎成績の関連,およびVER 高値の個体における交尾時間と受胎率の関係について調べた.雌キツネの外陰部の発情徴候は毎年2 ~ 3 月のみ観察され,ER 値のピーク値は外陰部の腫脹1 ~ 2 日後に観察された.非発情時の基礎VER 値は140 units 前後であることから,発情期のVER のピーク高値(280 units 以上)は受胎の必要条件と考えられた.交尾時間は40 分を超えると高い受胎率が得られた.このことから,発情期にVER が高値を示し,交尾時間が長くなると受胎率が飛躍的に高まることが明らかとなった.続いて,優秀な種雄キツネの精液を活用するために,人工授精法の確立を試みた.直腸電気刺激射精法を用いて雄キツネからの精液採取条件を検討し,牛用精液希釈液が精液の希釈増量・凍結保存に応用できるか調べた.精液採取には周波数60 Hz で電圧3 ~ 4 V(2 ~ 4 サイクル)で良好な精液量,精子数および精子生存指数が得られた.牛用精液希釈液を用いた凍結・融解精液は25 カ月間不変で妊娠率は81.3%であった.この結果から,精液採取には限定された電気刺激条件が存在し,牛用精液希釈液はキツネの人工授精に応用できることが判明した.最後に,2012 ~ 2017 年に得られたキツネの交配・人工授精データを取り纏め, 受胎プロフィルを回顧的に解析した.自然交配では同一雄キツネと交配を繰り返すと妊娠率が上昇した.人工授精の妊娠率 (82.4%)は自然交配 (67.7%)に比べ高い傾向にあった.初産と経産の間に妊娠率,妊娠期間及び新生子数に差はみられなかった.以上,得られた成績は安定した繁殖成績の維持と向上に寄与するとともに,種の多様性維持にも役立つと考えられた.