著者
馬場 雅典
出版者
九州女子大学 : 九州女子短期大学
雑誌
九州女子大学紀要 = Bulletin of Kyushu women's university (ISSN:18840159)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.83-98, 2014

小論は“Absolution”をThe Great Gatsbyの前触れと見なす論である。この作品はカトリック的要素を持っているが、この作品に関する作者の手紙が示しているように、作者は制度としてのカトリックを問題とするつもりはなかった。彼がカトリック的要素を持つ作品を書いたのは、カトリック性が時代の問題を含んでいると考えたからである。それはカトリック的絶対主義と世俗的相対主義の相克が時代の重要な問題であるという認識であった。Fitzgeraldは故郷ミネソタが生んだ全米的に影響力のあったJohn Irelandの行動と彼が高校から大学時代にかけて大いに影響を受けたFay神父の行動からこの認識を持った。 時代は1880年から1920年の間に「生産者」的資本主義からから「消費者」的資本主義社会へと移行した。「消費者」的資本主義社会は一部の資本家に富や権力が集中しているアメリカの現実を見えなくしている。This Side of ParadiseでFitzgeraldは社会主義的理想主義の姿勢を見せている。しかし、社会主義的理想主義ではアメリカ社会の病巣はもはや食い止めることができないという悲観主義をFitzgeraldは強めていく。その対抗策をFitzgeraldは初めて“Absolution”において示す。それは言葉による人間的な現実の創造である。