著者
今林 広樹 石巻 優 馬屋原 昂 佐藤 宏樹 山名 早人
雑誌
情報処理学会論文誌データベース(TOD) (ISSN:18827799)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.1-12, 2017-03-22

医薬品や遺伝子などの機密性の高いデータに対する各種処理をクラウドなどの第三者のサーバ上で行う場合,第三者のサーバからの機密情報漏洩が懸念される.解決策として,機密情報そのものではなく匿名化したデータを第三者のサーバに保存し各種処理を行う方法が考えられるが,医療分野など,処理の正確性が求められる分野では匿名化を採用することが困難である.この問題を解決するため,本稿では,完全準同型暗号(FHE: Fully Homomorphic Encryption)を用いてデータを秘匿した状態で各種処理を行うことを考える.そして,各種処理の対象として頻出パターンマイニングを取り上げる.FHEを用いた各種処理を行ううえでの問題は,膨大な時間・空間計算量を要する点である.FHEの頻出パターンマイニング手法への適用例としては,Aprioriアルゴリズムを対象としたLiuらのP3CCがあるが,やはり膨大な時間・空間計算量を要する.これに対して本稿では,1) 暗号文パッキングによる暗号文数の削減,および2) 暗号文キャッシングによるサポート値計算の高速化によって,時間・空間計算量を削減する手法を提案する.実験評価では,10,000トランザクションのデータセットにおいて,P3CCの430倍の高速化と94.7%のメモリ使用量削減を達成した.
著者
馬屋原 昂 佐藤 宏樹 石巻 優 今林 広樹 山名 早人
雑誌
研究報告システムソフトウェアとオペレーティング・システム(OS) (ISSN:21888795)
巻号頁・発行日
vol.2017-OS-141, no.6, pp.1-7, 2017-07-19

マルチコアシステム上で多数のスレッドが同時実行される場合,メモリアロケーションがボトルネックになることがある.これは,複数のスレッドから同時にシステムコールが呼ばれることに起因する.TCMalloc,JEmalloc,SuperMalloc などの従来の汎用用途向けのメモリアロケータでは,各スレッドのローカルヒープメモリへロックフリーでアクセスすることで高速化を実現している.これに対して本稿では,完全準同型暗号計算を対象にした FCMalloc を提案する.完全準同型暗号計算ではメモリ使用量が既知の場合が多く,さらに,ある決まったパターンでメモリアロケーションが繰り返されるという特徴がある.こうした特徴を利用し,FCMalloc では pseudo free によってメモリマッピング情報を繰り返し利用することで,物理メモリレベルでメモリプールを用いる.さらに,ローカルヒープメモリ間の通信経路の構造を全結合とすることで,複数のスレッドによるアクセスのロック競合を減少させる.すなわち,システムコールの頻度を下げ,メモリ管理をできる限りユーザ領域で実現することにより高速化を実現する.完全準同型暗号上で構築した頻出パターンマイニングアルゴリズムである Apriori アルゴリズムを対象とした評価実験の結果,既存手法の中で最も高速である JEmalloc と比較して 2.4 倍の高速化を達成した.