著者
高坂 洋史
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.93-99, 2018-08-01 (Released:2018-08-15)
参考文献数
52

我々ヒトも動物であるので,動物が動くのを見てもそれほど驚きを感じない。しかし,動物の身体の中で起こっていることに目を向けると,動物が動くことはそれほどあたりまえではないことに気が付く。動物は,体全体に配置された筋肉を巧みに制御することで運動する。その運動制御を主に担うのが,多数の神経細胞が複雑につながった中枢神経系である。複雑な神経ネットワークが,いかにして適切な運動制御を実現するのかというのは,全く自明な問いではなく,神経科学における重要な研究課題である。本稿では,神経回路がどのように運動制御を担うかについて,細胞レベルでの解析が進んでいるショウジョウバエ幼虫を用いた研究を紹介する。ショウジョウバエ幼虫は,体軸方向に体節がつながった構造をしており,各体節の筋収縮パターンによって前進,後進,屈曲などを示す。我々の研究グループを含む世界中の研究者により,これらの多様な運動パターンを担う介在神経細胞が明らかにされてきている。この神経回路機構を,他の動物種の運動回路機構と比較することで,運動制御機構の共通性を探る。