著者
高坂 祐樹 扇田 いずみ 清藤 真樹 田中 淳也
出版者
日本水産工学会
雑誌
日本水産工学会誌 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.199-204, 2019

陸奥湾は青森県の中央に位置し,ホタテガイ養殖業が基幹産業である。ホタテガイは水温などの漁場環境の影響を強く受けるため,その変化に対応した迅速な管理が必要である。そこで青森県では1974年に,陸奥湾の環境をリアルタイムに把握するシステム「陸奥湾海況自動観測システム」(以下,ブイロボ)を導入し,ホタテガイの養殖管理に役立ててきた。ブイロボは約10年ごとに改良を加えながらシステムの更新を行っており,現在は第5世代目が陸奥湾の海況をモニタリングしている。一方で,2010年夏季にブイロボ観測史上最高の異常高水温により,湾全体の約7割のホタテガイがへい死した。このことがきっかけとなり,漁業者等から養殖魚場内の観測や水温予測などの新たなニーズが生じた。水産総合研究所では,翌年に高水温対策のための事業をたち上げ,簡易ブイや自記式水温計による沿岸域の観測や,ホタテガイの水温耐性試験などを実施した。その結果,ホタテガイ養殖海域の水温は,それより沖合のブイロボよりも最大で3.3℃高いことや,ホタテガイは25℃以上でへい死率が高くなることを把握した。しかし,簡易ブイは観測結果をリアルタイムに公開する機能がないこと,高水温を観測後の対策ではすでに遅いことなどの課題も判明した。ブイロボは事業として長年安定的に運用できる反面,このような課題に応じたカスタマイズは困難である。そこで,漁業者の多様なニーズに柔軟に対応するために,県内の観測ブイや気象等のデータを一元的に処理するシステム「青森県海況気象総合提供システム(海ナビ@あおもり)」を自主開発した。