- 著者
-
高場 智博
- 出版者
- 日本地球惑星科学連合
- 雑誌
- 日本地球惑星科学連合2018年大会
- 巻号頁・発行日
- 2018-03-14
筑紫平野東部に位置する東西約20 kmの耳納山地の北麓には,70の小規模扇状地が分布する。耳納山地を含めた筑紫平野東部における発達史地形学的研究は,北野平野(黒田・黒木,2004)や筑後川扇状地(財津,1987)で若干の調査報告がおこなわれているにすぎない。そのため耳納山地北麓に分布するそれら小規模扇状地群の地形発達の解明は,筑紫平野の地形形成を理解する上でも重要である。また,研究例に乏しい西南日本における扇状地研究の進展という点でも有意義である。 はじめに,航空写真判読によって地形分類図を作成した。次いで,露頭調査をおこなった。その際,年代試料となるロームや腐植質堆積物を採取し,後者については5試料を14C年代測定に供した(分析は株式会社加速器分析研究所に依頼)。 航空写真判読の結果,本地域の小規模扇状地は複数の段丘面からなることが明らかとなった。段丘面は分布高度などを基準に1~5面の5つに大別された。最高位である1面の露頭では,段丘構成層直上にBW型ガラスが多数含まれるローム層(厚さ40 cm)が認められ,その上位に堆積する腐植質砂層(厚さ20 cm)の下端10 cm部分の14C年代値が1,181–1,056 cal BPであった。BW型火山ガラスは,テフラ降下範囲よりK–Ah(7.3 ka;町田・新井,2003)またはAT(26–29 ka;町田・新井,2003)に由来すると考えられる。3面の露頭では,段丘構成層直上に腐植質砂層(厚さ10 cm)が観察され,その14C年代値が下端5 cmの部分で7,127–7,015 cal BP,上端5 cmの部分で6,182–5,999 cal BPであった。4面の露頭では,段丘構成層を覆う腐植質砂層(厚さ20 cm)がみられ,その下端10 cmの部分に含まれる木炭の14C年代値が1,408–1,320 cal BPであった。別地点(4面)では,段丘構成層上に砂層(マサ土),腐植質砂層(厚さ20 cm)がみられ,後者下端10 cmの部分の14C年代値は1,058–938 cal BPであった。 以上により,1面は本地域にBW型火山ガラスが降下した時期,3面は約7,000年前,4面は1,000–1,400年前ごろに,それぞれ既に段丘化していたと推測される。これらの段丘面形成および段丘化には,グローバルな気候変動,水縄断層の活動(西暦679年の筑紫地震;松村,1990),あるいは人間活動などが関わってきた可能性がある。謝辞 本研究を進めるにあたり明治大学の吉田英嗣准教授には親身になってご指導いただいた。本研究には2017(平成29)年度笹川科学研究助成(29-622)の一部を使用した。参考文献 黒田・黒木(2004)日本地理学会発表要旨集,81,p.85 町田・新井(2003)東京大学出版会,50–51. 松村(1990)九州史学,98,1–23. 財津辰也(1987)大分地理,1,33–42.