著者
高木 智世 森田 笑
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.93-110, 2015

日本語会話でしばしば用いられる「ええと」は,従来,「フィラー」や「言いよどみ」などと呼ばれてきた.本稿では,質問に対する反応の開始部分に現れる「ええと」が,相互行為を組織する上でどのような働きを担っているかを明らかにする.具体的にどのような環境において,質問に対する反応が「ええと」で開始されるかを精査することにより,上述の位置における「ええと」が,単なる「時間稼ぎ」や発話産出過程の認知的プロセスの反映ではなく,質問に対する反応を産出する上での「応答者」としてのスタンスを標示していることを明らかにする.日本語話者は,質問を向けられたとき,まずは「ええと」を産出することにより,「今自分に宛てられたその質問に応答するには,ある難しさを伴うが,それでも,応答の産出に最大限に努める」という主張を受け手(質問者)に示すことができる.すなわち,「ええと」を反応のターンの開始部分で用いることは,相互行為の進展が阻まれているように見える事態において,「今ここ」の状況についての間主観性を確立し,相互行為の前進を約束するために利用可能な手続きなのである.
著者
高木 智世
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.348-363, 2018-09-30 (Released:2018-12-26)
参考文献数
29
被引用文献数
3

本稿では,高機能自閉症と診断された男児と支援者の相互行為場面を会話分析の方法を用いて緻密に分析し,両者のコミュニケーション上の「すれ違い」やトラブルが生じる過程を記述する.この作業を通して,一見不可解で,支援者に混乱をもたらしている男児のふるまいが,相互行為状況に対する敏感さや相互行為上の問題への対処を志向するものであり,定型発達者と同様,一定の記述可能性を含むことを検証する.とりわけ,自閉スペクトラムに特徴的な症状とされる「独語的ふるまい」にも見える,室内の鏡に向けての語りかけが,すでに生じている問題を解決するための仮の参加枠組みを構築するふるまいとして捉えられることを示す.緻密な分析を通して自閉スペクトラム症児のふるまいの「不可解さ」に対して相互行為現象としての記述可能性が与えられたことを踏まえ,そうした事例研究の積み重ねが,自閉スペクトラム症者/児のふるまいが定型発達者のそれとは必ずしも一致しない「合理性」に支えられている可能性について理解を深めることになることを主張する.
著者
高木 智世 森田 笑
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.93-110, 2015-09-30 (Released:2017-05-03)

日本語会話でしばしば用いられる「ええと」は,従来,「フィラー」や「言いよどみ」などと呼ばれてきた.本稿では,質問に対する反応の開始部分に現れる「ええと」が,相互行為を組織する上でどのような働きを担っているかを明らかにする.具体的にどのような環境において,質問に対する反応が「ええと」で開始されるかを精査することにより,上述の位置における「ええと」が,単なる「時間稼ぎ」や発話産出過程の認知的プロセスの反映ではなく,質問に対する反応を産出する上での「応答者」としてのスタンスを標示していることを明らかにする.日本語話者は,質問を向けられたとき,まずは「ええと」を産出することにより,「今自分に宛てられたその質問に応答するには,ある難しさを伴うが,それでも,応答の産出に最大限に努める」という主張を受け手(質問者)に示すことができる.すなわち,「ええと」を反応のターンの開始部分で用いることは,相互行為の進展が阻まれているように見える事態において,「今ここ」の状況についての間主観性を確立し,相互行為の前進を約束するために利用可能な手続きなのである.