著者
村井 史樹 高木 治雄 村里 恵理子 高村 彰子 新堂 喬
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第30回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.215, 2008 (Released:2008-12-01)

【はじめに】 今回、脊髄梗塞により両下肢麻痺を呈した症例に対して、Gait solution長下肢装具(以下GS長下肢装具)を使用する機会を得たので、従来の長下肢装具との歩容の違いについて症例を通して、ここに報告する。GSとは、足継手の油圧シリンダーにより、前頚骨筋の遠心性収縮を補助し歩行の手助けをする装具である。【方法・対象】 症例:67歳 男性 1月25日発症 評価 3月12日 Br-s下肢 右IV 左V MMT 体幹 3 殿筋 2/4 腸腰筋 3/4 大腿四頭筋 3/4 ハムストリングス2/4 基本動作 寝返り~座位:自立 移乗動作:監視 立ち上がり:物的支持にて自立歩行 平行棒内 装具なし 軽介助。右の初期接地~立脚中期にかけて膝の過伸展、左の遊脚期~初期接地に右の膝折れが観察される方法:GS長下肢装具と長下肢装具での平行棒内歩行(遠位監視)装具の条件:長下肢装具・・・底屈をとめての背屈フリーダブルクレンザックGS長下肢装具・・底屈制動の背屈フリー 初期屈曲角度 0° 設定は本人に教えていない。 歩行条件:事前に長下肢装具での歩行練習は行っていない。装具の種類・設定は教えていない。 動画による歩行分析 【結果】 観察によるGS長下肢装具と長下肢装具の違い(GS長下肢装具/長下肢装具)・体幹の前傾が少ない ・健側の振り出しの歩幅が広い ・患側の遊脚期の振り出しがスムーズ 歩行速度(m/s)0.223/0.23 ケイデンス(steps/min)42/43 ストライド長(m) 0.64/0.64右立脚期 2.19/2.06 右単脚支持期 0.5/0.4【考察】 今回、歩行について、歩行速度、ケイデンス、ストライド長ともに変化は見られなかった。歩容に関して、GS長下肢装具は、GSの特徴である前脛骨筋の遠心性収縮の補助が可能となり、重心の前方への移動がスムーズになった。そのため、初期接地~立脚中期までの股関節伸展がしっかり行えるようになり体幹の前傾も軽減し、健側の振り出しが上手く行えていた。さらに、その後、健側の立脚期の重心移動もスムーズになることで患側の振り出しも円滑に出来たのではないかと考える。通常の長下肢装具に比べ股関節伸展を上手く発揮できたことが一歩行周期において重心の移動を円滑に行うことができたのではないかと思われる。しかし、通常との長下肢装具との歩行速度などに変化が見られなかったこととして、上肢支持を行っていたこと、歩行が、平行棒の中と限定されており、歩行距離が短かったことなどにより変化がなかったのではないかと考えられた。【まとめ】 今回、脊髄梗塞に対し、GS長下肢装具を使用したところ、客観的データには変化は見られなかったが、主観的に歩きやすいとの返答も得られ・歩容の改善も見られた。GS長下肢装具は早期から歩行時の重心移動獲得を目的とした治療用装具としても従来の長下肢装具より有効ではないかと考える。