著者
永井 明彦 高柳 素夫
出版者
The Chemical Society of Japan
雑誌
工業化学雑誌
巻号頁・発行日
vol.71, no.10, pp.1696-1703, 1968

ポリピニルアルコール(PVA)の結晶状態を明確にする目的で, 結晶化を阻害するとされている1,2-グリコール結合を過ヨウ素酸ナトリウムとの反応およびr 線照射によって適度に切断した10種の試料の動的粘弾性挙動を検討した。粘弾性吸収の大きさのを損失弾性率(E'')対絶対温度の逆数(1/T) ロット下の面積より求めて, 各吸収について考察を行なった。80℃(138c/s)付近近に存在する非結晶領域内分子鎖のミクロブラウン運動の生起に起因する主分散α a 吸収の大きさは上記処理による1,2-グリコール結合量の減少とともに大きく減少し, 1,2-グリコール結合が熱処理に際して結晶化し得ず, 非結晶領域に存在することが粘弾性の立場からも示された。さらに120℃(138c/s)付近に存在するβ c 吸収と著者らが名付けた吸収の大きさは赤外吸収スペクトルより求めた結晶化度( X <SUB>I</SUB>)と密度より算出した結晶化度(X<SUB>d</SUB>)との差ΔX (=X<SUB>I</SUB>-X<SUB>d</SUB>)の増加とともに大きく増加する一定の相関関係を得た。今まで報告されている研究結果から, XIは結晶領域と見なされ得ず, 他方分子鎖のトランス配置の連結という点では規則性を持つような領域を反映するものと見なすことにより, βe吸収はPVA結晶組織中の不完全結晶状態に起因していることを結論した。