著者
高橋 淳雄
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学水産学部紀要=Memoirs of Faculty of Fisheries Kagoshima University (ISSN:0453087X)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.133-140,

The origins of chlorine contained in the waters emitted from the hot springs nearthe sea coast in Kagoshima Prefecture are discussed, on the bases of the amounts ofchlorine, the deviations from the relative amounts of five major constituents of the seawater, and the hydrostatic pressure equilibrium. They are attributed to the present seawater, the sea water enclosed underground in the geological age, and the volcanicprocesses.鹿児島県海岸温泉を,海水混入の如何を主として調査した。Cl量の多少,泉温との関係,成分比の偏度,静水圧平衡を根拠として以下の如き結果が導かれた。(表9省略)海岸に近い温泉はすべて海水混入があり,Cl量が甚だ多く,且つ成分比は海水に類似して居り,その偏度は小さい。但し海水混入の様式は各温泉群によって相異している。海潟温泉,古里温泉は現海水の混入で説明されるが,阿久根温泉,鹿児島市温泉,指宿温泉は,地質時代の封入海水の混入或は火山性源も考えられる。海岸から離れた湯之元温泉,霧島温泉にも海水混入の疑がある。尚すべて以上の温泉は海水比以上のKを含有していることも注目される。以上の考察は海岸に近い温泉にCl量が多いという事実に着目し,主としてこれを海水源と見こしたのであるが,もし海岸からの遠近を論ぜず,すべてCl源は火山性であると考えれば如何になるか。海岸に近い温泉にCl量が多いという事実は,この考え方のみによれば海岸に近い火山の活動が強くて火山性のClを多く出したことに基くと見こすべきことになる。一方海岸から遠い場合は,火山性源のCl量多い温泉水が深所にあって,水圧弱くて地上に湧出し得ず,水蒸気のみが高地に迄上昇し得る状況にあると相像できる。Kの多いと云う事実は,かかる考え方に対する一つの支持を与えるが,しかし海岸に近い火山の活動が強いということは必ずしも当を得ない。従ってCl源は海水と火山性の両方にあると見こすことが出来る。