著者
高橋 豊蔵
出版者
大東文化大学
雑誌
Research papers
巻号頁・発行日
vol.6, pp.1-29, 1986-11-15

1. 序論 この小論は, イギリスおよびアメリカにおける貨弊価値変動会計についてとりあげたものである。2. イギリスにおける貨幣価値変動会計2. a第二次世界大戦後のインフレーション会計イギリスにおいては、第一次世界大戦 (1914〜1918) 後はドイツ フランスアメリカの場合と異なり物価指数は上昇したものの1920年を頂点として急速に下落しはじめ1932年には戦前を下まわったためインフレーションに関する文献もあらわれなかった。しかし、第二次世界大戦 (1939-1945) 後は, インフレーションの影響を大きく受けたためインフレーション会計の多くの文献をみることとなった。それは次のごとくである。1945年の所得税法ICAEW (The Institute of Charterd Accountant in England and Wales) の勧告書12号 (1949) ICAEWの勧告書第15号 (1952年) これらの共通点は固定資産と棚卸資産をその中心に置いている点にある。ACCA (The Association of Certified and Corporate Accountants) の「貨弊購買力の変動と会計 (1952)」では取替価格についてとりあげている。2. bサンデランズ, レポート (1975) 本報告書においてはカレントコスト会計を提唱し, 一般物価変動会計を否定したことから、イギリスのインフレーション会計の基本方向は一転することとなった。2. c現在原価会計 これを計算例によって示したのが現在原価会計でサンデランズレポート第12章と第13章によっている。その後1976年に組織されたモーペス・グループのED (exposure draft) 18号の発表とそれに対する批判, ついで会計基準報告委員会は (1) ハイド委員会による簡潔な暫定ガイドライン (1978年から上場会社に適用) と (2) モーペス・グループによるかなり簡素化し、また公表物価指数の使用と従来の財務諸表を重視する改定恒久基準 (1979年から大企業に適用) の2本立で臨んでおり、この両方式のカレント・コストによる修正は (1) 減価償却と (2)在庫評価格益の2項目に限り, さらに (3) の貨幣項目の修正は議論の余地があるというのが実情のようであり, この (3) についての結論がでるのには多くの時間を要することが予想される。3. アメリカにおける貨幣価値変動会計3. aインフレーション会計の現状アメリカのインフレーション会計研究の展開過程は2つの系譜に分けられる。第1の系譜は3bでとりあげる一般購買力修正会計であり, 第2の系譜は, 3cでとりあげる取替原価会計である。3. b一般購買力修正会計 イギリスのインフレーション会計については第一次世界大戦 (1914〜1918年) 後には文献にみるべきものがなかったが, アメリカにおいてはスウイニーによる研究が1927年以降, 多くの諸論文となって示された。そして1936年にこれらの成果をまとめた Stabilized Accounting として発表されたのである。スウイニーはアメリカにおけるインフレーション下において名目貨幣計算がもたらす経済的矛盾によって生じた計算的混乱を避けるため, 企業は一般購売力の維持とその拡大を図るため, 一般物価指数を安定物価基準にとって貨幣価値変動を考慮した場合の純損益を計算し, もって経営の指針とすべきだとしたのである。しかし, スウイニーの研究は当時引続き試みられなかった。だが1974年に至ってFASBC (財務会計基準審議会) が, 「一般購買力単位による財務報告」を発表したのを始めとした諸論文によって, 一般購買力単位による会計情報が実際に適用される段階に進むかにみられていたのである。3. c取替原価会計 第2の系譜である取替原価会計についてはE.O.エドワーズとP.W.ベルによる「意志決定と利潤計算」(1961年) がまずあげられるが, 1976年3月に, SEC (証券取引委員会) は会計連続通牒190号で、同年12月25日以降に終了する事業年度から一定の規模の企業に対し, 特定項目の取替原価法の開示を義務づけた。したがって取替原価会計が, SECが取替原価に関する情報を一部の特定項目に限定しているが開示させる方向に動いたことは, SECがこれまで取得原価主義会計を制度的に実施してきただけに, アメリカの公表財務諸表制度がこれを契機として転換する可能性を示唆しているかにみえる。
著者
高橋 豊蔵
雑誌
Research papers J
巻号頁・発行日
vol.6, pp.1-29, 1986-11-15

1. 序論 この小論は, イギリスおよびアメリカにおける貨弊価値変動会計についてとりあげたものである。2. イギリスにおける貨幣価値変動会計2. a第二次世界大戦後のインフレーション会計イギリスにおいては、第一次世界大戦 (1914〜1918) 後はドイツ フランスアメリカの場合と異なり物価指数は上昇したものの1920年を頂点として急速に下落しはじめ1932年には戦前を下まわったためインフレーションに関する文献もあらわれなかった。しかし、第二次世界大戦 (1939-1945) 後は, インフレーションの影響を大きく受けたためインフレーション会計の多くの文献をみることとなった。それは次のごとくである。1945年の所得税法ICAEW (The Institute of Charterd Accountant in England and Wales) の勧告書12号 (1949) ICAEWの勧告書第15号 (1952年) これらの共通点は固定資産と棚卸資産をその中心に置いている点にある。ACCA (The Association of Certified and Corporate Accountants) の「貨弊購買力の変動と会計 (1952)」では取替価格についてとりあげている。2. bサンデランズ, レポート (1975) 本報告書においてはカレントコスト会計を提唱し, 一般物価変動会計を否定したことから、イギリスのインフレーション会計の基本方向は一転することとなった。2. c現在原価会計 これを計算例によって示したのが現在原価会計でサンデランズレポート第12章と第13章によっている。その後1976年に組織されたモーペス・グループのED (exposure draft) 18号の発表とそれに対する批判, ついで会計基準報告委員会は (1) ハイド委員会による簡潔な暫定ガイドライン (1978年から上場会社に適用) と (2) モーペス・グループによるかなり簡素化し、また公表物価指数の使用と従来の財務諸表を重視する改定恒久基準 (1979年から大企業に適用) の2本立で臨んでおり、この両方式のカレント・コストによる修正は (1) 減価償却と (2)在庫評価格益の2項目に限り, さらに (3) の貨幣項目の修正は議論の余地があるというのが実情のようであり, この (3) についての結論がでるのには多くの時間を要することが予想される。3. アメリカにおける貨幣価値変動会計3. aインフレーション会計の現状アメリカのインフレーション会計研究の展開過程は2つの系譜に分けられる。第1の系譜は3bでとりあげる一般購買力修正会計であり, 第2の系譜は, 3cでとりあげる取替原価会計である。3. b一般購買力修正会計 イギリスのインフレーション会計については第一次世界大戦 (1914〜1918年) 後には文献にみるべきものがなかったが, アメリカにおいてはスウイニーによる研究が1927年以降, 多くの諸論文となって示された。そして1936年にこれらの成果をまとめた Stabilized Accounting として発表されたのである。スウイニーはアメリカにおけるインフレーション下において名目貨幣計算がもたらす経済的矛盾によって生じた計算的混乱を避けるため, 企業は一般購売力の維持とその拡大を図るため, 一般物価指数を安定物価基準にとって貨幣価値変動を考慮した場合の純損益を計算し, もって経営の指針とすべきだとしたのである。しかし, スウイニーの研究は当時引続き試みられなかった。だが1974年に至ってFASBC (財務会計基準審議会) が, 「一般購買力単位による財務報告」を発表したのを始めとした諸論文によって, 一般購買力単位による会計情報が実際に適用される段階に進むかにみられていたのである。3. c取替原価会計 第2の系譜である取替原価会計についてはE.O.エドワーズとP.W.ベルによる「意志決定と利潤計算」(1961年) がまずあげられるが, 1976年3月に, SEC (証券取引委員会) は会計連続通牒190号で、同年12月25日以降に終了する事業年度から一定の規模の企業に対し, 特定項目の取替原価法の開示を義務づけた。したがって取替原価会計が, SECが取替原価に関する情報を一部の特定項目に限定しているが開示させる方向に動いたことは, SECがこれまで取得原価主義会計を制度的に実施してきただけに, アメリカの公表財務諸表制度がこれを契機として転換する可能性を示唆しているかにみえる。