著者
高橋 輝暁
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

1.ヨーロッパにおける「精神」(Geist)概念の系譜について,初期古代ギリシアの哲学者アナクシメネスにいう「プネウマ」(pneuma)までさかのぼって吟味するにあたり,古代ギリシア語ならびにラテン語のうち18世紀ドイツで「精神」(Geist)およびその派生語を用いてドイツ語訳された単語や概念を探るという方法で,たとえば,キケロにおける「狂気」に相当するラテン語(furor)は,デモクリトスにおけるギリシア語「プネウマ」に対応する意味をもつ概念として,18世紀ドイツのゴットシェートにより「精神を吹き込まれた状態」を意味するドイツ語(Begeisterung)をもって翻訳されていることが確認された。2.ヘルダーリンの作品やヘーゲルの『美学講義』において,「精神」概念を「プネウマ」の訳語としてとらえ,その汎神論的原義にさかのぼって解釈することにより,難解とされる各箇所を明解に解釈できることが確認された。3.「プネウマ」の類義語ともいうべき「エーテル」(aither/aether)を概念史的に追跡したところ,近代では,少なくとも初期ライプニッツにおいて,「エーテル」概念は「プネウマ」のラテン語訳とされる「スピーリトゥス」(spiritus)とも密接に関連し,物質性とともに観念性をもあわせもつ「プネウマ」に特徴的な二重性のうち,「自然」としての前者には「エーテル」概念が,「精神」としての後者には「スピーリトゥス」概念が用いられ,それぞれ概念的に使い分けられているとの感触をえた。この点の立ち入った検証とともに,このライプニッツの思想が18世紀ドイツにおける「精神」概念に与えた影響の追跡は,今後の課題である。4.東洋思想における「気」の概念と「プネウマ」概念とは,ともに「大気」という物質性と「精神」という観念性をあわせもつという並行的対応関係の比較対照的分析の糸口をつかむことができた。