著者
高橋 香苗
出版者
国際ジェンダー学会
雑誌
国際ジェンダー学会誌 (ISSN:13487337)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.112-131, 2021 (Released:2022-12-25)
参考文献数
40

日本社会における母親像は多様化しつつある。その一方でギャル系のファッションを好む母親,いわゆるギャルママをとりまく現状からは,多様化といってもその許容される範囲には,いまだ限界があるのではないかということが示唆される。母親の役割葛藤に関する研究では,母親としての自己と個としての自己の双方の充実が母親にとって重要であることが指摘され,その不均衡さの問題は母親自身の就業や学歴との関連,あるいは異文化という視点から論じられてきた。しかし,外見のイメージにおける母親らしさと自分らしさを母親たちがいかに両立しているのか,という視点にたった議論は展開されていないという課題があった。こうした課題をふまえ,本研究はファッションにおいても特徴をもつギャルママを対象としたインタビュー・データを分析した。その結果,外見の上では母親らしさではなく自分の好きな格好をする一方で子育ての実務的な面では母親らしいことをとにかく頑張るというギャルママの行動は,外見と役割とを切り離して個としての自己と母親としての自己を両立させる一つの実践であるということが明らかになった。こうしたギャルママの論理は,一見すると新しい母親像の提示であるが,一方で当事者たちは自己犠牲の母親という規範性に疑問を抱いているわけではなく,むしろそれらを参照していることから,そこには保守的な自己犠牲の母親像を強化する働きがあることが見出された。