著者
佐藤 利夫 野中 資博 山本 廣基 高田 竜一 福田 康伴
出版者
日本海水学会
雑誌
日本海水学会誌 (ISSN:03694550)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.469-480, 2003 (Released:2013-02-19)
参考文献数
41

2030年頃に予測されている世界食料危機に対応するためには, 日本は海産資源に頼らざるを得ない. 特に生産力が高い沿岸浅海域の増殖環境の整備が不可欠である. しかし, 日本の沿岸浅海域では環境破壊や水質汚濁等により水産資源の増殖に重要な藻場の消失が進行している. よって沿岸浅海域の環境保全と藻場の回復を行う技術開発が極めて重要である.沿岸環境を劣化させている一因として, 火力発電所から排出されるフライアッシュ (FA), クリンカーアッシュ (CL) の沿岸域への投棄, および, コンクリートの基本材料となる骨材 (砂利および砂) の沿岸域からの過量な採取がある.本研究の目的はFAおよびCLをコンクリートに混合して再利用し, さらに地場産業からの廃棄物である低品質ゼオライトおよび鉄分含量が多い鋳物廃砂 (鉄分) も混合して, 生物易付着性を付与した廃棄物利用コンクリートを開発し, これを人工藻礁として活用することである. これが成功すれば, 浅海生産環境の保全・修復および廃棄物の再資源化を同時に解決することが可能となる.まず, 配合材料が異なるPlain (通常のモルタル), FA & CL FA & CL+ゼオライト, FA & CL+鋳物廃砂, FA & CL+ゼオライト+鋳物廃砂モルタル供試体の5種類を作製し, 人工藻礁としての利用性を検討するため, 耐久性・強度を評価した・次にFA & CLモルタル供試体について有害物質の溶出試験を行い, 海洋環境や生物に対する安全性を評価した. 次いで各モルタル供試体を海水に浸漬し, 表面に形成された生物膜のバイオマスをATP量, クロロフィルa量およびFDA分解活性を測定することにより評価した.強度試験の結果, FA・CLおよび鋳物廃砂やゼオライトを混合した廃棄物利用コンクリートは, 人工藻礁として十分な強度を有することが明らかとなった. また溶出試験を行った結果, FAとCLを混合したモルタル供試体から重金属類および有機リンの溶出はほとんど認められず, 廃棄物利用コンクリートを藻礁として利用する上で安全性を確認する第一歩を踏み出すことができた.生物易付着性試験を行った結果, ゼオライトと鋳物廃砂 (鉄分) を配合した3系 (FA & CL+ゼオライト, EA & CL+鋳物廃砂, FA & CL+ゼオライト+鋳物廃砂) のATP量は, Plainと同等か多かった. クロロフィルa量は, FA & CL+鋳物廃砂>FA & CL+ゼオライト>FA & CL+ゼオライト+鋳物廃砂=FAamp;CL>Plainの順に多かった. FDA分解活性はPlainと各系に有意な差は見られなかった. 以上の結果から, FA・CLおよび鋳物廃砂 (鉄分) やゼオライトを混合した廃棄物利用コンクリートは, 生物の付着性も良好であり, 特に藻類の著しい増加が見られ, 人工藻礁として利用できる可能性が高いことが示された.