- 著者
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高見 秀一
- 出版者
- 法と心理学会
- 雑誌
- 法と心理 (ISSN:13468669)
- 巻号頁・発行日
- vol.15, no.1, pp.3-9, 2015
本報告では、手続二分論の観点から2件の刑事裁判を考察した。第一は、平成21年4月23日起訴の殺人既遂被告事件である。裁判員裁判が始まる直前に起訴された事件であったため、裁判員裁判ではないが、故杉田判事が裁判長をつとめておられた合議体に係属したため、同判事の、手続二分論的運用の試みに従った審理が行われた。犯人性を全面的に争った否認事件である。第二は、平成23年11月24日起訴の殺人(2名)既遂、死体遺棄被告事件である。この事件は、故杉田判事の合議体ではない合議体に係属した、裁判員裁判事件である。殺人については、事件性自体を全面的に争った否認事件である。手続二分論的運用ではなく、遺族の被害感情が罪体認定に悪影響を及ぼした可能性が高い。これらの事例を念頭に、手続二分論(的運用)についての検討を行った。手続二分論(的運用)のよいところは、少なくとも、罪体についての審理の過程に、被害感情・処罰感情が全く入ってこないことであり、そのメリットはとても大きい。しかし、罪体についての有罪心証を示されたからといって、罪体について激しく争っていた事件について、同じ裁判体に対し、有罪(有実)を前提にした情状についての主張・立証をする余地があるかについては、心理的に極めて困難であると考えられる。罪体に関する審理と、情状に関する審理を、別の裁判体が行わない限り、手続二分論的運用によっても十全な情状立証は困難であると思われた。