著者
高野 雅司
出版者
日本イスパニヤ学会
雑誌
HISPANICA / HISPÁNICA (ISSN:09107789)
巻号頁・発行日
vol.2013, no.57, pp.91-109, 2013 (Released:2016-05-05)

『オクノス』においてルイス・セルヌーダが模索した自由は、直面する現実からの解放によって獲得される、人間存在のひとつの在り方と規定することができる。本研究はこうした自由の性質を、音楽、同性愛、美、そして時間といった他の主要テーマとの関連から分析することを目的としている。セルヌーダが自由を追い求め続けた理由は、スペイン内戦によって困難な亡命生活を余儀なくされたことにある。こうして、身を置く環境から抜け出して自由を獲得しようとするセルヌーダの姿勢が生まれたのである。結果として、肉体を眺めるだけでは存在の十全性は必ずしも獲得しえないこと、自然による美の観照は孤独の感情を生み出しうること、そして、幸福な過去の回想は過去の破壊という時間の属性を免れることができないことが判明した。しかし、音楽に関しては、現実と存在様態の変容によって自由が完全な形で実現されていたのである。『オクノス』で表現される自由は、べつの現実を創造しようとする、セルヌーダの自発的な意識の現れと言えるだろう。