著者
髙橋 京子 髙浦(島田) 佳代子 後藤 一寿
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.422-433, 2022 (Released:2023-07-01)
参考文献数
72
被引用文献数
1

本研究は,日本古来の篤農技術や品種・系統および形態の史的検証と現況調査に基づき,医薬品原料品質の担保と採算性が見込める暗黙知発掘を目的とした。特に,中山間地域活性化を図る候補として期待されるシャクヤク(Paeonia lactiflora Pallas)について,江戸享保期,徳川吉宗が展開した薬草政策以降,国内で育種された大和芍薬のルーツとして,実地臨床で良品とされる「梵天(白花重弁)」と異なる複数の系統基原種を確認した。その中に,幕府保護下の私設薬園(現森野旧薬園)を創始した森野藤助賽郭真写「松山本草」に描かれた赤花単弁の品種も存在した。森野家所蔵文書群から,大和の薬種特産性を示す初出史料を発見し,国内生産地動向や品質系統の管理・栽培技術を考察した。近現代の薬用栽培法では摘蕾・摘花が散見するが,地域文化および薬種専門家の現地取材から,観賞や切り花利用など営利性向上の可能性を示唆した。