著者
鳥羽 悦男
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.67-77, 1989

1988年4月から7月まで長野県長野盆地の犀川の中洲でコアジサシのEPC(つがい外交尾)の行動を調査し,EPCを試みる雌雄の行動とつがいの繁殖活動について述べた.<br>1)1987年に114羽,1988年に62羽を捕獲し,個体識別した.EPCの試みに関して492時間,つがいの繁殖活動についてのべ630時間観察した.<br>2) 31巣について繁殖活動を観察した結果,すべて一夫一妻のつがいであった.<br>3) つがい以外の雄から雌へめ114例の接近中,'EPCの完了'4例(3.5%),'マウントのみ'11例(9.6%),'EPCの失敗'15例(13.2%)で,接近のみに終わったものが67例(58.8%)であった.<br>4) PC(つがいの交尾)では雄はほとんど餌の小魚をくわえずに雌に近づく.しかし,EPCは雄が小魚をくわえ,出巣中の雌に接近することから始まる.これに対して,雌は交尾要求行動をとる.マウント中に雄の餌を奪い取るために雌は動き,交尾まで到らないことが多い.<br>5) 雌は餌をくわえた雄の接近に対して交尾姿勢やうずくまり姿勢をとり,雄のマウントの寸前に飛びつき餌を奪い取ることがあった.114例の接近中17例(14.9%)あり,4羽の雌が1例ずつ餌を奪い取った.<br>6) 雌は,交尾よりもむしろ餌がほしいために,雄のEPCの試みに応じるふりをして餌奪い行動をとるものといえる.餌奪い行動は抱卵期育雛期に多い.この時期は雌の出巣時間が増え,つがい外雄と接触するチャンスが増える.また,雄のつがい雌への給餌量が減少する.これらが餌奪い行動と関係していると考えられる.<br>7) 産卵期中はつがい雄の雌への給餌が多い.雄はこの時期に抱卵中のつがい雌の防衛をしないが,この給餌がその働きをしていると考えられる.<br>8) 雄は雌の産卵時期が判断できないらしく,またEPCを試みても交尾に到ったものが少ない.このため雄のつがい以外雌への受精の可能性が低い.