著者
鹿間 時夫 / DOMNING DARYL P.
出版者
日本古生物学会
雑誌
日本古生物学會報告・紀事 新編
巻号頁・発行日
vol.1970, no.80, pp.390-396_1, 1970

1965年8月当時横浜国立大学地学教室学生であった龍野伸武と同教室の尾崎公彦が, 長野県上水内郡戸隠村土合の水内層群猿丸層(猿丸砂岩礫岩層下部)より哺乳類の巨大な助骨を発見した。現地は裾花川と楠川の合流点の近くの川岸である。一見海牛類のものであることは明かであったので, 鹿間は1969年Berkeley滞在中DOMNINGと共同研究をした。骨はバナナ状に肥厚し強く曲り, 先端部は断面が円形に近い。California大学の標本と比較検討の結果, 現世絶滅の有名なリチナ海牛に近い種Hydrodamalis sp.であることが判った。リチナ海牛H. gigasの最小に近い大形の中新世種Metaxytherium jordaniの助骨よりは曲り方大であるが, 基部の形はリチナ海牛よりも中新世種に近い。Californiaの鮮新統よりjordaniとgigasの中間的な新種が発見されているので, 之との比較が考えられる。北太平洋の海牛の系列は単系的でMetaxytherium jordaniよりHydrodamalis gigasへの進化しか見られない。現世ベーリング海に分布したHydrodamalisが鮮新世には太平洋の両岸ではるか南方にまで分布していたことは意義深い。